√セッテン
最後に山岸絵里子が山岡へ発信した時間は

0時58分

普通寝てる時間だ。電話が取れなくても無理はない。

山岸絵里子が俺に最期に電話をしたのは

0時45分

「俺が、敦子に古典の補習教えてたときに、掛かってきた番号だ……」

そうだ

河田とダーツをした帰り、参考書を買って本屋から出たときに掛かってきた電話。

たしか21時頃

1度、無視した。

そして2度目

オムライスを食べながら、敦子にスパルタ教育していたあの時

喉から吐き出すような吐息、暗闇を彷徨い歩くような声

突然切れたあの電話。

「あれ、山岸だったのか……?」

「ねぇ、最期に絵里子、何か、言ってたんじゃないの?」

山岡の目は真剣だった。

「絵里子、ちゃんと伝えるつもりだったんだよ!」

「いや、何も……途中で、切れた」

あからさまに山岡ががっかりしてみせた。

「そうか、伝えられずに……絵里子……」

山岡は涙を溜めて、それからその涙をこすった。

「こんなこと巻き込んだ絵里子のこと、恨まないであげて」

「別に山岸恨んだりしないよ。お前は?」

「恨んでない。最後に電話してくれたのが、私だってことが、こんな状況で不謹慎だけど、嬉しかった」

「山岸からじゃなくたって、自分のとこにやってくるルートは無限大なんだからな。一々電話してきた奴や電話した事をを恨んだり悔やんだりしてもしょうがない」

「ただ、やっぱり、悲しいよ。絵里子はどんな思いで死んだのかな。事故だなんて、本当は死の待ち受けのせいでしょ?渋谷景さんだって、電車で……」

暑い。うだるような暑さが余計な感情をももたらす。

こんなくだらないことをはじめたヤツに対して、怒りを感じはじめていた。
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