√セッテン
「待ち受けのことは俺も調べてる。敦子、お前無理してるんじゃないか?」

違う、と敦子は言って、ポロ、と涙を落とした。

「違うよ。あ、ちが……ありがと、潤」

敦子は目元をヴィヴィアンのハンカチで覆った。

俺は階段上の山岡と河田に視線を投げる。

2人は心配そうな顔で敦子を見て、お互い視線を合わせた。

心当たりは、2人にもないか。

肩に手を置いて、声を殺して泣く敦子を見る。

小さく揺れる肩から流れる髪の間から、頬を伝う涙が見えた。


急に階下から声がして顔を上げると、顔も知らない女子2人がこちらに近づいてきた。

「敦子、何かあったのか?」

俺が声を掛けると、2人は、え、という顔をしてお互い顔を見合わせた。

「な、なんかあったってぃうかぁ、知らない?」

2人は急によそよそしく、お互い言葉を譲り合う。

そういえば前にも山岸絵里子にそんな言い方をされたな。

一体俺はどれだけ世間に興味のない人間だと思われているんだか。

「敦子、噂の死の待ち受けが出てるんだよ。それでさ……クラスの奴らが」

「リサ、マイ、いいよ、ごめん、心配してくれてありがとう。本当に大丈夫だから」

敦子が言って2人の声を止めた。

クラスの、奴らが……?

「なんだソレ、どういうことだよ」

「敦子の机に……花とか置いたバカがいて」

リサ、マイと呼ばれた2人が、汚いものに触るかのように話を続けた。

「高校生にもなってそれないじゃん? でもさ、バカのバカが悪ノリしちゃって……前、敦子にフられたこと、根に持ってるんじゃね?藤田の奴!終わってる!」

藤田……?

「藤田、知らないの? ほんっと黒沢君て人に興味ないんだね、野球部の藤田だよぉ、うちのクラスバカばっかだけど運動部は多くてさぁ」

「クソだな」

河田が階段を降りながら俺の肩を叩いた。

「殺っとく? あー、黒沢はこういう直情的なことはダメか。俺、代わりに殺っとくぜ」
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