助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
応接室に通された。
シンプル、だけど上質で洗練された家具で統一された、開放的な空間が広がっていた。
「キレー……」
謝罪訪問という、緊張感マックスな状況にも関わらず、私は無意識の声に出してしまった。
「……ふざけてる場合?」
「……失礼しました……」
クソ上司の一言で、現実に引き戻される。
普段であれば、いつものイヤミとしか思わなかっただろう。
でも今は違う。
不本意ではあるが……認めたくないが……私のミスが発端で、クソ上司をこの場に連れてきてしまった。
そもそも私にとっては、「謝罪訪問」は生まれて初めての出来事。
……ここは大人しくしておこう……。
コンコン。
ノックの音が聞こえる。
来た……!
自分の心臓の鼓動が一瞬で大きくなった。
背中が汗ばんでくる。
急に吐き気が襲ってくる。
どうしよう。
第一声、私は何を言えば……。
扉が開き、明るい色のジャケットを着こなした女性が入ってくる。話には50代と聞くが、美容雑誌に出てくるモデルのように、メイクと髪型が決まっている。香水の香りがほのかに漂ってくる。
この人が、あの社長だ。
オーラがあきらかに一般社員のそれではない。
私はこの人を怒らせてしまったのか……!
一方で自分はと言えば、節約のためにドラッグストアで買ったプチプラコスメと100均のゴムで、どうにか社会人としての最低限のマナーを守れている程度。ジャケットもスカートもシワが入ってしまっている。
そう言えば、クソ上司のスーツも新品のようにパリッとしているし、清潔感ある髪型をしており、デキる雰囲気を外見からきちんと作り込んでいる。
「そんなにおしゃれして、女にモテたいのかね〜」
と、陰で揶揄したこともあった。
が、この場になって初めて、クソ上司の出立ちの意味に気づいた。
……ここにいるのが、急に恥ずかしくなった。
そういえば、土下座を要求されたという事例を、以前聞いたことがある。
その時は、「自分には関係ないだろう」と思っていたので、スルーしていたのだが……。
私は椅子から立ち上がり、床にしゃがみ込もうとした。
土下座をしなければ……。
あれ、土下座って、どうやってやるんだっけ……?
すると、同じタイミングでクソ上司も立ち上がり
「なっ……!?」
私の腰をグッと引き寄せる。
「何もするな」
クソ上司が私の耳元で、私にだけ聞こえるような小さな声で言う。
「どうなさったの?」
怪訝な顔で女性が聞いてくる。
間違いない、この声はあの電話の主の狸村真由子。
「失礼いたしました。部下が立ち上がろうとしたら目眩がしたようで……」
と言いながら、クソ上司は私の体からゆっくり離す。
そして
「この度は、うちの高井が大変失礼なことをいたしまして、申し訳ございませんでした」
と90度のとても綺麗なお辞儀をした。
私も慌てて
「申し訳ございませんでした」
と頭を下げた。
しばらく無言が続き……。
「おかけになって」
と、狸村が声をかける。
その声は、電話よりずっと柔らかくなっていた。
「私どもの不手際で、お気を悪くしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
ソファに腰掛けてから、改めてクソ上司が謝罪の言葉を重ねる。
これまでどれだけの修羅場を乗り越えてきたのかは、想像に難くない。
「……良いのよ。私も言い過ぎたわ。本当にごめんなさいね」
「は、はあ……」
クソ上司に向けている社長の表情にメスを感じた。
私の方には一向に見向きもしない。
あれだけ人の心を抉っておいて……何を今更……。
思い出すだけで泣きそうになるのを、私は必死でこらえた。
正面を向いたまま、出そうな涙をひたすら堪える努力をした。
「もしかして、何かご事情があったのではないですか?」
と、クソ上司が言葉を続ける。
あのおかしなクレームのどこに事情が!?
流石にクソ上司の発想は突飛すぎるだろうと思った。
が……、なんと社長はぼろぼろと涙を流し始めていた。
なんてこの人が泣く必要がある?
「実は……うちの人、この間オレオレ詐欺に引っかかってしまって……500万取られてしまって……」
思ったよりヘビーな話題だったー……。
私は、あまりの急展開に、自分はどう振る舞うべきか頭をフル回転させて考える。
これは……どう言う言葉を期待されているのだろうか……。
「そうでしたか。それは……大変お辛かったですね」
クソ上司は、マニュアルにも記載されている、相手に寄り添う決まり文句を言った。
社長は、静かに頷いた。
対応は正解だったようだ。
……マニュアルを覚えることの大切さを、改めて実感した。
次までに叩き込んでおかなくては……。
「それで、うちの人すっかり落ち込んでいたので……もし今回も詐欺だったらと思うと私、耐えられなくて……」
「事情は分かりました」
クソ上司は鞄から綺麗にアイロンがけされたハンカチをそっと社長に差し出した。
女性受けするような、ブランドもので、見ただけでこちらも上質なものと分かる。
もしかして……この上司は、こう言う展開をすでに予測していたと言うのか……?
私の視線に気づいたのか、クソ上司は一瞬だけ私と目を合わせ、ニヤリ……と口角を上げた。
私にはわかる……この表情は、何かを企んでいる腹黒顔だ……!
シンプル、だけど上質で洗練された家具で統一された、開放的な空間が広がっていた。
「キレー……」
謝罪訪問という、緊張感マックスな状況にも関わらず、私は無意識の声に出してしまった。
「……ふざけてる場合?」
「……失礼しました……」
クソ上司の一言で、現実に引き戻される。
普段であれば、いつものイヤミとしか思わなかっただろう。
でも今は違う。
不本意ではあるが……認めたくないが……私のミスが発端で、クソ上司をこの場に連れてきてしまった。
そもそも私にとっては、「謝罪訪問」は生まれて初めての出来事。
……ここは大人しくしておこう……。
コンコン。
ノックの音が聞こえる。
来た……!
自分の心臓の鼓動が一瞬で大きくなった。
背中が汗ばんでくる。
急に吐き気が襲ってくる。
どうしよう。
第一声、私は何を言えば……。
扉が開き、明るい色のジャケットを着こなした女性が入ってくる。話には50代と聞くが、美容雑誌に出てくるモデルのように、メイクと髪型が決まっている。香水の香りがほのかに漂ってくる。
この人が、あの社長だ。
オーラがあきらかに一般社員のそれではない。
私はこの人を怒らせてしまったのか……!
一方で自分はと言えば、節約のためにドラッグストアで買ったプチプラコスメと100均のゴムで、どうにか社会人としての最低限のマナーを守れている程度。ジャケットもスカートもシワが入ってしまっている。
そう言えば、クソ上司のスーツも新品のようにパリッとしているし、清潔感ある髪型をしており、デキる雰囲気を外見からきちんと作り込んでいる。
「そんなにおしゃれして、女にモテたいのかね〜」
と、陰で揶揄したこともあった。
が、この場になって初めて、クソ上司の出立ちの意味に気づいた。
……ここにいるのが、急に恥ずかしくなった。
そういえば、土下座を要求されたという事例を、以前聞いたことがある。
その時は、「自分には関係ないだろう」と思っていたので、スルーしていたのだが……。
私は椅子から立ち上がり、床にしゃがみ込もうとした。
土下座をしなければ……。
あれ、土下座って、どうやってやるんだっけ……?
すると、同じタイミングでクソ上司も立ち上がり
「なっ……!?」
私の腰をグッと引き寄せる。
「何もするな」
クソ上司が私の耳元で、私にだけ聞こえるような小さな声で言う。
「どうなさったの?」
怪訝な顔で女性が聞いてくる。
間違いない、この声はあの電話の主の狸村真由子。
「失礼いたしました。部下が立ち上がろうとしたら目眩がしたようで……」
と言いながら、クソ上司は私の体からゆっくり離す。
そして
「この度は、うちの高井が大変失礼なことをいたしまして、申し訳ございませんでした」
と90度のとても綺麗なお辞儀をした。
私も慌てて
「申し訳ございませんでした」
と頭を下げた。
しばらく無言が続き……。
「おかけになって」
と、狸村が声をかける。
その声は、電話よりずっと柔らかくなっていた。
「私どもの不手際で、お気を悪くしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
ソファに腰掛けてから、改めてクソ上司が謝罪の言葉を重ねる。
これまでどれだけの修羅場を乗り越えてきたのかは、想像に難くない。
「……良いのよ。私も言い過ぎたわ。本当にごめんなさいね」
「は、はあ……」
クソ上司に向けている社長の表情にメスを感じた。
私の方には一向に見向きもしない。
あれだけ人の心を抉っておいて……何を今更……。
思い出すだけで泣きそうになるのを、私は必死でこらえた。
正面を向いたまま、出そうな涙をひたすら堪える努力をした。
「もしかして、何かご事情があったのではないですか?」
と、クソ上司が言葉を続ける。
あのおかしなクレームのどこに事情が!?
流石にクソ上司の発想は突飛すぎるだろうと思った。
が……、なんと社長はぼろぼろと涙を流し始めていた。
なんてこの人が泣く必要がある?
「実は……うちの人、この間オレオレ詐欺に引っかかってしまって……500万取られてしまって……」
思ったよりヘビーな話題だったー……。
私は、あまりの急展開に、自分はどう振る舞うべきか頭をフル回転させて考える。
これは……どう言う言葉を期待されているのだろうか……。
「そうでしたか。それは……大変お辛かったですね」
クソ上司は、マニュアルにも記載されている、相手に寄り添う決まり文句を言った。
社長は、静かに頷いた。
対応は正解だったようだ。
……マニュアルを覚えることの大切さを、改めて実感した。
次までに叩き込んでおかなくては……。
「それで、うちの人すっかり落ち込んでいたので……もし今回も詐欺だったらと思うと私、耐えられなくて……」
「事情は分かりました」
クソ上司は鞄から綺麗にアイロンがけされたハンカチをそっと社長に差し出した。
女性受けするような、ブランドもので、見ただけでこちらも上質なものと分かる。
もしかして……この上司は、こう言う展開をすでに予測していたと言うのか……?
私の視線に気づいたのか、クソ上司は一瞬だけ私と目を合わせ、ニヤリ……と口角を上げた。
私にはわかる……この表情は、何かを企んでいる腹黒顔だ……!