助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
帰り道の駅のホームにて。
「……随分思い切ったことしましたね」
「何が」
ぽんぽこ幸せ株式会社を出てから、今の今までずっと無言が続いていた。
行く時は、どう謝ればを考えることに集中していたが、帰りとなると、クソ上司と2人きりでどう過ごせばいいかわからず、結局何も話せずにいた。
でも、この空気感につい我慢できなくなった私は、気になっていたことを会話のフックにすることにした。
「……オレオレ詐欺の悩みから、電話番もかねた事務員雇いませんかって……どうしたらそんな交渉に入ろうなんて思えるんですか」
「チャンスだと思ったからだろ」
「普通、あれを思いませんよ」
私がそう言うと、クソ上司は心底呆れたようにため息をつくと
「良いじゃん。あちらも悩みが解決、こっちもお金が入る。まさにウィンウィンな関係を作るのが、僕らの仕事なんだから」
と言い放った。
「そう……かもしれませんけど……」
確かに、この人があの提案をした時、あの社長は喜んでいた。
「……勉強になりました」
「いきなり何?」
流れるような交渉術、相手の表情が変わるタイミングを見逃さない観察力……そして安心させるような声色……。
そのすべてを完璧に使いこなした、まさに魔法のような営業と言っても過言ではない。
あんなの……私見た事ない……。
絶対できない……。
できる自信なんて持てない……。
「……営業って、ただ求められたら売る……だけじゃないんですね……。相手の話からヒントを得ることが大事なんだって……よく……分かりました」
「……ようやく僕の凄さ、分かったの?」
言葉にするのは悔しいが、……それはもう、ものすごく……。
きっと、私一人だったら契約どころか取引停止まで追い込んでしまったと思う。
電話を受けた時の感情をむき出しにして、取り返しがつかない喧嘩をしていただろう。
即断即決。
丁寧なフォロー。
相手に寄り添う提案。
それを常に繰り返したことで、この人はトップに上り詰めたのだ。
それを一体どれだけの人が当たり前に出来るのだろうか。
私は、自分のこれまでの自信を木っ端みじんに砕かれた。
「今まで、生意気を申し上げて、大変失礼いたしました」
「残念な部下のフォローをするために、上司は高い給料貰ってるから」
「嫌味ですか」
「好きなように解釈すれば」
「どこまで余裕なんですか」
今までは、この人を蹴落としたい、見下したい。
それだけでこの会社にいたのかもしれない。
だけど、今日私は……本当に大事なことを見失っていたことに気づいた。
そう……。
あの面接で言った私の……。
「上を向いて歩ける人を増やしたい。世の中色んな仕事があって、あなたを必要としてるところが他にもあるよって伝えたい。そんな仕事がしたい」
いきなり、クソ上司……加藤さんが私の面接の時に話した志望を、そのまま暗唱したかのようにすらすらと話した。
「それって……私の……志望理由ですよね?」
私がそう言うと、加藤さんが首を降って
「僕がこの仕事に就いた本当の理由」
「そうだったんですか……」
「だから、驚いた。あんたが、僕と同じ理由でこの業界に来たいと思ってて」
「それならなんで、面接の時に否定するようなこと、言ったんですか?」
「過度な期待をし過ぎて、思ってたのと違うとか訳わかんないこと言って、あっという間に辞めてった奴、たくさんいるから」
その表情は、どこか少し寂しそうに思えたのは、月明かりがそうさせたのだろうか……。
「だから、あんたみたいな、イマドキの女が、ついて来られるはずないって……思ってた」
「実際、私はどうでしたか」
「さすがステンレス製だね、僕がどんなにイジメても、ちっともへこたれない」
「やっぱりイジメてたんじゃないですか!」
「間違えた。部下への指導だ」
「イジメたと認めろ!」
と私が食って掛かろうとした時、私の前に、加藤さんは右手を差し出してきた。
意味が分からず、その右手を見つめていると、
「初契約、おめでとう」
そうか、これ、結局初契約になるのか。
でも……。
「加藤さんが……説得したからです。私の成果じゃないです」
結局交渉の場面はすべてこの人が全部対処した。
私は何もできなかった。
そう思い、地面を見つめていると、加藤さんが私の右手をぐっと掴み
「あんた引き寄せたんだ、この結果を」
「私……が?」
「あんたが諦めずに電話をかけ続けたから、この契約に繋がった。だから、これはあんたの初契約」
「……本当に良いんですか?」
「悪いと思う事、僕がさせると思うの?」
ニヤリといつもの意地の悪い笑みを浮かべる加藤さん。
握りしめられた手が熱い。
年下年下って思ってたけど……しっかりと男性の手だと思った。
私はなんだか気恥ずかしくなって、突き放すように手を離してしまった。
やばい、何これ恥ずかしい……。
自分の顔から火が出るんじゃないか、そう思った時、どこからかともなく、お腹が鳴る音が聞こえた。
私……ではない。
「……どっかで飯、食べない?」
もしかしなくてもさっきのお腹の音はマネージャーですか!?
「どっかの腹の虫が騒いでるみたいだし」
すでにスマホでレストランナビを見始めていた加藤さんが、耳を真っ赤にしながら言うのがおかしくなってしまい、吹き出すのを堪えるのが大変だった。
私は、努めて冷静なフリをし、
「……おごりですか?」
「高くつくけど良いの?」
「割り勘で結構です」
高い金貰ってるって言ったの、誰だよ!
部下に還元しろよ!
「和食?洋食?」
と加藤さんが聞いてくる。
そこの選択権はくれるのか。
「うーん……」
がっつり食べたい気もするけど、お年頃だから健康食も捨てがたいし……
「ああ、茶色い系のご飯が好きなんだっけ」
茶色い系って……それって私の弁当の事か……って!
あんな些細なことまで覚えてるのかこの人!
「あ、あれはその……夕飯の残りとかだから仕方がなく……」
「ふーん。それであんなうまそうなの作れるもんなんだな」
「はい?」
この人……今なんて言った?
うまそうなの?
……私の事、もしかして褒めた!?
「分かった」
加藤さんが言う。
「何がですが?」
「あと10秒以内で和食洋食選べなかったら蛙料理ね」
「早い!そしてなんで蛙!?」
「即断即決」
「うっ……」
蛙はいやだ……。
そう思いながら、頭の中でどちらにしようかなと決まりかけたその時。
加藤さんのスマホが、けたたまし鳴りだした。
「……随分思い切ったことしましたね」
「何が」
ぽんぽこ幸せ株式会社を出てから、今の今までずっと無言が続いていた。
行く時は、どう謝ればを考えることに集中していたが、帰りとなると、クソ上司と2人きりでどう過ごせばいいかわからず、結局何も話せずにいた。
でも、この空気感につい我慢できなくなった私は、気になっていたことを会話のフックにすることにした。
「……オレオレ詐欺の悩みから、電話番もかねた事務員雇いませんかって……どうしたらそんな交渉に入ろうなんて思えるんですか」
「チャンスだと思ったからだろ」
「普通、あれを思いませんよ」
私がそう言うと、クソ上司は心底呆れたようにため息をつくと
「良いじゃん。あちらも悩みが解決、こっちもお金が入る。まさにウィンウィンな関係を作るのが、僕らの仕事なんだから」
と言い放った。
「そう……かもしれませんけど……」
確かに、この人があの提案をした時、あの社長は喜んでいた。
「……勉強になりました」
「いきなり何?」
流れるような交渉術、相手の表情が変わるタイミングを見逃さない観察力……そして安心させるような声色……。
そのすべてを完璧に使いこなした、まさに魔法のような営業と言っても過言ではない。
あんなの……私見た事ない……。
絶対できない……。
できる自信なんて持てない……。
「……営業って、ただ求められたら売る……だけじゃないんですね……。相手の話からヒントを得ることが大事なんだって……よく……分かりました」
「……ようやく僕の凄さ、分かったの?」
言葉にするのは悔しいが、……それはもう、ものすごく……。
きっと、私一人だったら契約どころか取引停止まで追い込んでしまったと思う。
電話を受けた時の感情をむき出しにして、取り返しがつかない喧嘩をしていただろう。
即断即決。
丁寧なフォロー。
相手に寄り添う提案。
それを常に繰り返したことで、この人はトップに上り詰めたのだ。
それを一体どれだけの人が当たり前に出来るのだろうか。
私は、自分のこれまでの自信を木っ端みじんに砕かれた。
「今まで、生意気を申し上げて、大変失礼いたしました」
「残念な部下のフォローをするために、上司は高い給料貰ってるから」
「嫌味ですか」
「好きなように解釈すれば」
「どこまで余裕なんですか」
今までは、この人を蹴落としたい、見下したい。
それだけでこの会社にいたのかもしれない。
だけど、今日私は……本当に大事なことを見失っていたことに気づいた。
そう……。
あの面接で言った私の……。
「上を向いて歩ける人を増やしたい。世の中色んな仕事があって、あなたを必要としてるところが他にもあるよって伝えたい。そんな仕事がしたい」
いきなり、クソ上司……加藤さんが私の面接の時に話した志望を、そのまま暗唱したかのようにすらすらと話した。
「それって……私の……志望理由ですよね?」
私がそう言うと、加藤さんが首を降って
「僕がこの仕事に就いた本当の理由」
「そうだったんですか……」
「だから、驚いた。あんたが、僕と同じ理由でこの業界に来たいと思ってて」
「それならなんで、面接の時に否定するようなこと、言ったんですか?」
「過度な期待をし過ぎて、思ってたのと違うとか訳わかんないこと言って、あっという間に辞めてった奴、たくさんいるから」
その表情は、どこか少し寂しそうに思えたのは、月明かりがそうさせたのだろうか……。
「だから、あんたみたいな、イマドキの女が、ついて来られるはずないって……思ってた」
「実際、私はどうでしたか」
「さすがステンレス製だね、僕がどんなにイジメても、ちっともへこたれない」
「やっぱりイジメてたんじゃないですか!」
「間違えた。部下への指導だ」
「イジメたと認めろ!」
と私が食って掛かろうとした時、私の前に、加藤さんは右手を差し出してきた。
意味が分からず、その右手を見つめていると、
「初契約、おめでとう」
そうか、これ、結局初契約になるのか。
でも……。
「加藤さんが……説得したからです。私の成果じゃないです」
結局交渉の場面はすべてこの人が全部対処した。
私は何もできなかった。
そう思い、地面を見つめていると、加藤さんが私の右手をぐっと掴み
「あんた引き寄せたんだ、この結果を」
「私……が?」
「あんたが諦めずに電話をかけ続けたから、この契約に繋がった。だから、これはあんたの初契約」
「……本当に良いんですか?」
「悪いと思う事、僕がさせると思うの?」
ニヤリといつもの意地の悪い笑みを浮かべる加藤さん。
握りしめられた手が熱い。
年下年下って思ってたけど……しっかりと男性の手だと思った。
私はなんだか気恥ずかしくなって、突き放すように手を離してしまった。
やばい、何これ恥ずかしい……。
自分の顔から火が出るんじゃないか、そう思った時、どこからかともなく、お腹が鳴る音が聞こえた。
私……ではない。
「……どっかで飯、食べない?」
もしかしなくてもさっきのお腹の音はマネージャーですか!?
「どっかの腹の虫が騒いでるみたいだし」
すでにスマホでレストランナビを見始めていた加藤さんが、耳を真っ赤にしながら言うのがおかしくなってしまい、吹き出すのを堪えるのが大変だった。
私は、努めて冷静なフリをし、
「……おごりですか?」
「高くつくけど良いの?」
「割り勘で結構です」
高い金貰ってるって言ったの、誰だよ!
部下に還元しろよ!
「和食?洋食?」
と加藤さんが聞いてくる。
そこの選択権はくれるのか。
「うーん……」
がっつり食べたい気もするけど、お年頃だから健康食も捨てがたいし……
「ああ、茶色い系のご飯が好きなんだっけ」
茶色い系って……それって私の弁当の事か……って!
あんな些細なことまで覚えてるのかこの人!
「あ、あれはその……夕飯の残りとかだから仕方がなく……」
「ふーん。それであんなうまそうなの作れるもんなんだな」
「はい?」
この人……今なんて言った?
うまそうなの?
……私の事、もしかして褒めた!?
「分かった」
加藤さんが言う。
「何がですが?」
「あと10秒以内で和食洋食選べなかったら蛙料理ね」
「早い!そしてなんで蛙!?」
「即断即決」
「うっ……」
蛙はいやだ……。
そう思いながら、頭の中でどちらにしようかなと決まりかけたその時。
加藤さんのスマホが、けたたまし鳴りだした。