助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
「ちっ、会社からか……」
加藤さんが舌打ちをしながら、うんざりした表情でスマホの画面を見ている。
もう定時をとっくに過ぎているというのに会社からかかってくると言うことは……。
ひどく嫌な予感がする。
「はい加藤です。……はい……はい?」
はいを繰り返す度に、どんどん声のトーンが下がっていく。
聞いてるこちらが、胃を悪くしそう。
コーヒー3杯一気飲みした時と今、どちらが胃に悪いだろう。

「……聞こえない。はっきり言え」
ひえー。氷山の上にでもいるかのように、空気が冷たくなった。
自分だったらと思うと、ゾッとする。
電話の向こう側の誰だかわからない人、アーメン。いや……御愁傷様?どっちでもいいか。

「……そうか……分かった。すぐ帰る」
話がついたようだ。
スマホを切った加藤さんは、一際大きなため息をついた。
「何かあったんですか……?」
恐る恐る聞いてみる。
「契約書に不備が見つかったとか……」
「ま、まさか……」
私のだったらどうしよう……。
「心当たりでもあるの?」
全力で首をぶんぶん横に振った。
全くない、と言えば嘘にはなるが。

すると、いきなり加藤さんがぷっと噴き出した。
「そんな青い顔しなくても、別の奴のトラブルだから」
「あ、そうですか……」
すると、加藤さんが腹を抱えて大声で笑い出した。
「ちょっ!なんで笑うんですか」
とか言いつつ、加藤さんのこんな全力の笑顔を初めて見たので、ほんの少しだけ、加藤さんファンの女子たちの気持ちがわからなく……は、ない……かな。

「そんな顔もするんだなと思って」
「そんな顔?」
そう言うと、加藤さんが私の鼻に人差し指を当てて、ほんの少しだけ押した。
「狸の気が抜けたような顔」
「はあ!?」

前言撤回。
ちっとも可愛くない……!
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