助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
あれから、YAIDAには何度か訪問をした。
その都度、長谷部さんの信用を獲得することはできた。
でも彼女の姿はいつも見つけることができなかった。

せめてメールを送れば……とも自分で思うが、時間が経てば経つほどどう切り出して良いか分からなくなる。
書いては消し、決しては書いてまた消す。
それを繰り返している内に、僕は昇進してしまった。

チームを持つようになり、僕は自分の部下にクライアント先を引き継ぐ。例外なく、YAIDAも。
長谷部さんには泣かれたが、大きな組織にいる以上仕方がないこと。そして本来なら喜ばしいこと。

僕はその日も、名刺を見ながらメールの下書きを書こうと唸っていた。
キーボードを打っては、消す。
最初の一文が本当に決まらない。

部下への指導は一言で済む。
クライアントへの挨拶は、クライアントにとって喜ばしいと思ってもらえるだろう情報を加える。
ルールとして決めてしまえば、たった5分で終わることなのに……。

「加藤さん……今少しよろしいですか……?」

背後から恐る恐る、声をかけられた。
振り返って顔を確認すると、自分の部下ではなかった。
つい最近、人事部に配属された人だ。

「はい。なんでしょう?」
「あのぉ……中途採用の件なんですが……」
「履歴書なら、メールで送ってください。すぐに確認しますので」
「あ、いえ……今日急に面接が決まった人がいまして……」
「珍しいですね」
「人事部長が、この方は良いって言い出しまして……」

うちの人事部長は、書類審査がとても厳しい。
基準は分からないが、そのため面接までくる人間の質が非常に良い。

「そうですか」
「はい。それで、ぜひ加藤さんにもなるべく早めに確認して欲しいとのことで……。できれば今日には日程調整して、明日には面接してしまいたいとのことです……」
「随分急ですね」

普通なら、大体書類選考に1週間、面接に1週間と……早くても2週間程度はかかる見込みだ。

「それが、大手企業に新卒で入社した方みたいで、経歴含めて申し分ないと人事部長がひどく気に入りまして」
「書類だけで、そこまで……?」
「あっ、それでなるべく早めに加藤さんにもご確認いただくようにと……。確認お願いします」

僕は訝しみながら、その人が渡してきた履歴書に目を通すと、椅子から転げ落ちそうになる程驚いた。
僕は必死で、真顔でいるのに精一杯だった。

何で……!?

その履歴書に書かれていた名前は、高井綾香。
写真は、僕が持っている写真より少し垢抜けていた。
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