助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
「何食べますか!俺注文しまっす!」

こんな風にフットワーク軽く話しかけてくれるのは、早瀬達夫くん、24歳。元フリーター。
この会社に来る前は、コンビニやガソリンスタンド、居酒屋などあらゆる仕事を掛け持ちしていたとのこと。
さすが元居酒屋の店員らしく、的確におつまみを選び出して、あっという間に注文を済ませてしまった。見事な注文用液晶パネルさばき……!

「すごいね、早瀬くんは。若いのに。それに比べて俺は……」

優しげな風貌にメガネ、そしてほんの少しストレスの兆候が見える頭髪の男性は元木剛さん。36歳。
今まで、老舗デパートの正社員として実直にお客様と向き合ってきた、バリバリの販売サービス系キャリアではあったものの、近年の不景気によって、年収300万円台で頭打ちになってしまったとのこと。
結婚を考えている、職場恋愛中だった彼女がいるが、バイヤーとして活躍している彼女の方が年収が高く、男として示しがつかないため、年収が彼女上回ったらプロポーズをしたい……というのが、うちの会社にきた転職理由とのこと。
最初聞いた時は、強い酒と味の濃いつまみが欲しかったほどの、甘々な理由。
そんな風に男性に思われて、羨ましい……!

それに比べて、私は……と、考えると虚しくなるので、元木さんと話す時は心のシャッターを半分閉じることに決めていた。
そうすることで、お互い平和になるのであれば、1番良い。

「元木さんはすごい人ですよ!先輩達も言っていたじゃないですか!元木さんが担当の方達から、いつもお褒めのメール来てるじゃないですか。部署でもすごく話題なんですよー」

ハイボールをごくごく飲みながら、三条ちゃんが話に入ってくる。

「元木さんが入ってくれたおかげで、転職者からのうちの会社の評判が鰻登りなんだーって。先輩方み〜んな、元木さんを部下に欲しいって狙ってますよ〜」
「そんなことないよ……。俺なんて……年収低いし……36歳の癖に……」
「元木さん、なんかテンション低くないですか?」

心配して尋ねてみると

「自分が面接する転職者が、若くて年収が高くてうらやましい……」
「あー……」

察した。
元木さんが相手にしている人は、年収が比較的安定している機械系の経験がある人。
大体、企業が出しているボーナスの金額に左右はされているものの、20代でも400万〜500万くらいはもらっている人たちばかりと聞く。

「俺も就職活動でそっち行ってたら、彼女と今頃結婚できてたのかな……」
「でも、元木さんずっとデパートで頑張ってらしたわけだし……転職者の中にはフリーターとかもいるでしょう?それに比べたら元木さんは立派」
「早瀬君の方がずっと立派だよ」
「え?俺がなんっすか?」

早瀬君が話に入ってこようとしたが、元木さんの早瀬君に対する軽い嫉妬を察したのか、河西君が

「早瀬は俺とサシで飲もうぜ。おすすめの酒教えてくれよ」

と早瀬君を引きつけた。
我が同僚ながら、ナイス〜!
私は心の中でいいねを送りまくった。
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