助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
ちびちびとビールを啜りながら、早くも酔ったのか泣き上戸が入っている元木さんの横で、もう1人心配なのが……。

「三条ちゃん大丈夫?ペース早くない?」
「平気です〜高井さ〜ん、これ、すっごく美味しいですね〜もう一杯飲みたいです〜」
「あーこらこら、お父さんお母さんに飲み過ぎで叱られちゃうでしょ、次は烏龍茶、いいね?」
「高井さん、超優しい〜。高井さん私のお姉さんになって〜」

こうして甘えてくる三条ちゃんはと言えば、家が超お金持ち。日本有数の財閥企業の娘で、大学は音大のピアノ専攻。CDデビューの話も決まっていたらしいが……。

「高井さん聞いてくださいよ〜」
「どうしたの三条ちゃん」

こちらも目がうるうるしている。
華奢だけど、推定Dカップ程あるお胸を持つ女の子。
可愛らしく妖精か小動物のような三条ちゃんに、顔を近づけながら甘えられると、女だけどすっごいムラムラしてくる。
いや、性的な意味ではない。
庇護欲……的なもの?

「今日も転職者さんにニマニマ笑われたり、先輩に無視されたんですー……」
「何かあったの?」
「分からないんです〜。ただ、覚えた通りに頑張ってるのに、君なんかに俺のこと任せられないよ……とか、ふざけてるの?とか……今日の転職者さんは胸触らせてくれたら頑張るから……とか言ってくるし……」
「そいつは絞め殺して良いと思う」
「高井さ〜ん、私も高井さんの部署に行きたいです〜」

三条ちゃんが私に抱きついてくる。
涙が、私の服に染みてくる。
かわいい女の子の涙と鼻水なら耐えられるが……これ男だったら地獄だな……。

「あー三条ちゃん!俺も高井さんに甘やかされたい〜」

河西君が捕まえてたはずの早瀬君が、私と三条ちゃんの間に入り込んできた。

「どうしたの早瀬君」
「いやあ……高井さん、マジすげっす!ルーキー賞!」
「え?」
「俺も、あんなルーキー賞取りたいっす。どうすれば取れるんですか?」
「あー……」

どうすれば。
……一瞬言葉に詰まる。
鬼上司の顔が、浮かんだから。

「こら、早瀬!俺とサシで飲めないって言うのか?」

河西君は、早瀬君が持ってるからのグラスにビールを注ぎながら、入ってきた。

「だってー高井さんからこの話が聞きたくて、皆集めたんすよーどうにか」
「ああ、そうだったな」

河西君は今にもくっついてきそうな早瀬君と私の間に入り込みながら

「高井さん、話してやりなよ、ルーキー賞の裏話」

そう言うと、河西君は耳元でそっと囁いてきた。

「聞いてほしい愚痴、あるんでしょう?」

そうだった……!
私だって、みんなに負けないほど愚痴りたい事は山ほどある。
特にあの、鬼クソ生意気上司について……!
最近、ちょっとかっこいいかも……なんて、思い始めたけれど、撤回だ撤回!
強い酒でも飲まないとやっていけない!

「早瀬君!私に強い日本酒ちょうだい!」
「おっ、待ってました〜!!」

早瀬君は、注文用液晶パネルを持って私の近くまでやってきた。

「この酒なんかおすすめっすよ〜」
「へえ、どんな味がするの?」
「ん〜、めっちゃフルーティーで、良い香りっすね」
「じゃあ決まり!」

私は早瀬君の肩を抱き寄せ、頭を撫でてやる。

「早瀬君は本当に可愛いな……同じ年下でもこうも違うなんて……」
「え、なんすか?聞きたいっす!」
「ずるい早瀬さん〜私も聞きた〜い」

かわいい年下2名にずいずいと迫られ、私はとても良い気持ちになっていた。
私はグラス半分になったハイボールを一気に飲み干し

「よし!お姉さんが面白い話をしてあげよう!」

と立ち上がろうとした、その時。
ぐらり。
急に目眩がした。
と思ったら

「おい……大丈夫か……!?」

河西君を押し倒す形になってしまった。
体のほとんどは密着状態。
かろうじて顔だけは、接触を免れている。

「ごっ、ごめん……!」
「おい〜気をつけろよな」
「ごめんごめん」

そう思って、起きあがろうとした。
その時、入口の方から

「いらっしゃいませー」

店員の声が聞こえた。
その後すぐ、2人分の足音がすぐに近づいてきた。
と思う間もなく、私は固まってしまった。

今まさに話題にしようとしていた鬼上司……加藤さんが、井上さんを連れていた。
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