助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
「あれ?」
「どうしたの、河西君」

トイレから私達の座席に戻る時、急に河西君が立ち止まった。

「なあ、聞き覚えのある声しねえ?」
「え?」

私もよーく耳を澄ませてみる。

「…………で…………だろう…………」
「た…………が…………はい…………」

他の客達の声が大きくて、なかなか聞き取れない。
でも、確かに私はこの声を知っている。

「……どこ?」
「たぶん、そこの扉の中」

河西君が言うその場所は、ラッキーなことに隙間が少し開いていた。
なので、私と河西君は、目を合わせてお互いが同じ意見なのを確認してから、そっと覗き込んだ。

やっぱり……!!!

「あっ!」

と私が声をあげそうになったところを、河西君に口を塞がれた事で、どうにか盗み見バレは回避できた。

そこには、加藤さんと井上さんが、2人で何かを話している。
2人っきりで。
井上さんも加藤さんも、何やらにこやかに微笑んでいる。
あんな加藤さんの笑顔……私、見たことない……。
胸がつきんと、痛む。

私は

「……行こう、河西君」

と、小声で言う。
「おい、話しかけねえの?」
「邪魔して……明日仕事が大量に降ってくるのは困る」
「確かに」

河西君と私は、また目を合わせて頷いて、そっと足音を立てずに離れた。

廊下を歩きながら

「やっぱあの2人、できてるんかねぇ?」
「え……!?」
「いや、あの2人……ちょいちょい噂はあるんよ。なんだかんだ仕事の相性いいし、見た目も……釣り合うって言ってる人、結構いるっぽい」
「ふ〜ん……」

確かに。
あの2人を並べた写真が、ちょっとおしゃれな雑誌に使われていても全く違和感はない。
それに……。

「わざわざ隣同士に座ったりしないだろ?テーブルの向かいっかわ空いてるのに」

河西君が、ダメ押しの一言を追加する。
それってつまり……。
片時も離れたくない的な……。
確かにここ数日、あの2人はいつも一緒にいた。
とうとう、プライベートを仕事にまで持ち込んだということか?あの上司は。
人には普段から、仕事に集中しろ、余計なことを考えるなとチクチク言ってくるくせに……?

あー……なんか、今ものすっごいムカムカする。

「高井さん、ついたよ」
「あっ」

私は河西君に手を掴まれなければ、そのまま出口から外に出てしまっていたかも知れなかった。
ああ……それもこれも、全部、全部、ぜーんぶ、あのクソ上司のせいだ!!

「河西君……飲むよ」
「……おう、いいけど、水も飲めよ、頼んどくから」

私は、河西君の言葉を話半分に聞いて頷いた。
< 36 / 88 >

この作品をシェア

pagetop