助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
そのまま道路に出たかと思うと、加藤さんは片手スマホで何らかのアプリを見ている。
私の手を離さないまま。

「何してるんですか!いい加減手を離してください」
「ダメだ」
「何で!?」
「こんな酔っ払い、危なっかしくて離せるか」
「危なっかしい!?誰が危なっかしいんですか!」

私は無理やり加藤さんの手を払おうと、力一杯手を振るが、びくともしない。
なっ、なんで……!?

「いいから大人しくしてろ!暴れるな!」
「誰のせいですか誰の!」
「僕のせいだよ!」

おや……珍しく、素直に謝った……。
どういう風の吹き回し……?
加藤さんはスマホをしまうと、私の頭にかかってるタオルで、わしゃわしゃ私の髪を拭き始める。

「じ、自分でできますから」
「いいから」

有無が言わさない命令形。
でも、美容師さんみたいに、触られる部分がとても気持ちよかった。
端的に、うまい。

「こういうの、慣れてるんですか……?」
「ああ……?まあ……そうだな……」

照れ臭そうに、加藤さんが言う。
それって……。
女の子の髪の毛を拭くのを慣れてるってことは……。
やっ、やっぱり……!!

「井上さんにも、こう言うことしてるんですよね?」
「……は?」

加藤さんの手が、ぴたりと止まった。

「あ、あの……お二人……お付き合いされてるんですよね」
「……何で……」
「何でって、仕事中でもお二人いつもにこやかに話してますし」

私の時と違って。

「そ、それに今日も、お二人肩を寄せ合って座ってたので……。4人掛けの席で、わざわざ、真横に座って」

あ。
わざわざのところ、なんか強調したっぽくなってしまった。

「…………それで?」
「それで?」
「それで、だから、僕と井上さんが付き合ってるって……そう言いたいの?」
「そうじゃないかって……河西君も言ってるし……」
「河西……そうか……。そろそろ潰しておかないと……と思ってたけど」
「え?」

なんか、潰す……とか不穏な事言った気が……。
気のせいかな?
その時。向こう側からタクシーがこちらに向かってやってきて、私の目の前に止まった。

「あ、あの」
「タクシー、呼んだから」

ああ。
さっきスマホ操作していたのは、これか〜。
確かにびしょ濡れで電車に乗るのは躊躇われるし……。
……あ、でも。

「あのぉ……タクシー代私ないんですけど……」

ここから家まで、1万円くらいの距離な気がする。
このタイミングで、そんな支出は一人暮らしには痛い、痛すぎる。

「心配ないから」
「え?」

そう言うと、加藤さんは先にタクシーに入り込み、私を引き摺り込む。

「え!?ちょ!?」

加藤さんもタクシーに乗るんですか!?

「場所は、どこに?」
「目黒まで」

め、目黒……!?
というか、加藤さん、一体何を考えてるんだ……!?
腕組みをして、何だか貧乏ゆすりまで始めていた加藤さんを見るのが怖くて、私は窓の外を見るという、簡単にできる現実逃避に走ることにした。
窓ガラス越しに映る、びしょぬれの私と、その向こうに広がるキラキラな都会の風景に、複雑な気持ちになった。
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