助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
でっかい……。私の部屋の何倍あるんだろう……。

目黒にあるタワーマンションの一室に、私は連れてこられた。
表札には加藤と書いてあるので、加藤さんの自宅……なのだろう。
余計なインテリアが何1つない、シンプルすぎる部屋が、らしさを醸し出している。

「座って」
「え……」

座れと言われても……このモデルルームみたいな部屋のどこに座ればいいのか……。
加藤さんは、そんな私の背中をぽんっと押してくる。

「きゃっ!」

体制を崩して、私はそのままソファになだれ込んでしまう。
あ、このソファ、めっちゃふかふかする。
気持ちいい。
私の部屋には置くことができない高級品なんだろうな……。
そんな事をぼけっと考えていると、何の飾りもない、真っ白な陶器のマグカップを渡された。

「飲んで」
「え?」
「まずはこれ、飲んで」

加藤さんは無理やり私の口を開けて、その液体を飲ませようとする。

「何ですかこれ!毒でも入ってるんですか!」
「君はさっきから……僕を一体何だと思ってるのさ!」

そう言うと、加藤さんは、私に押し付けようとしたマグカップに口つけてそれを飲む。

「ほら。毒なんか入ってないから」
「わかりました!わかりました飲みますから!」

私はおそるおそる一口だけ飲んでみる。

「甘い……」

見た目は透明だったので分からなかったが、口の中にレモンの爽やかな香りと、蜂蜜のとろっとした甘さが広がった。

「それを飲んで、酔いを覚ませ」
「あ、はい……」

美味しい……。
どんどん体が欲してしまい、ごくごく飲み干す。
それを加藤さんは真横でじーっと見ている。

「……何ですか、さっきから」
「何ですかって、何……」

何で聞き返すかな。
聞きたいことあるのは、私の方なんだけど……。

「……私、何か悪いことしましたか」
「何で」
「さっきからじーっと私の事睨んでますけど……」
「…………え」
「えって……何ですかその顔」

まるで鳩に豆鉄砲喰らったような顔をしている。

「もしかして……自覚なしだったんですか。私に対してずーっと睨みっぱなしだったんですけど」
「……そう……だったのか……」
「そうですよ。井上さんにはあんなに優しそうな顔して……」

あ。
自分で言ってて、ちょっと虚しくなってきた。
私は、空になったマグカップを飲むふりをしながら

「私は井上さんとの仲、邪魔したりしませんから、ちょっとくらい私にも優しくしてくれませんかね」

と言ってみた。
ちょっとからかう気持ちもあった。
けれど、そのからかいの気持ちが伝わったのだろうか。

「ねえ、さっきからふざけるのやめてくれない」

マグカップを取り上げられ、私は加藤さんにソファに押し倒される状態になった。
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