助けてください！エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

「なっ……なっ……」

加藤さんが、金魚のように口をぱくぱく動かしている。
何か言いたげの様子だが、残念ながら私には読唇術も読心術も持っていないので、加藤さんには頑張って言語化をしてもらうしか、ない。
とはいえ、このまま床に、まな板の上の鯛みたいな格好でずっといるわけにはいかないので、とりあえず起き上がろう。
その時、異変に気づいた。
頭が重い。
顔が……熱い……？

「高井……さん？」

金魚の口パクパク状態から脱した加藤さんが、自分の手を私の額に手を当ててきた。

「……っ！？」

加藤さんは、何かに驚いたような顔をした。
かと思えば、急いで立ち上がり、キッチンの方に向かって行った。
何だろう……？
水でも飲みたいのかな。
あ、私も……意識したら急に喉が渇いた……。
加藤さんに続いて、私もキッチンまで行って水でも飲もうかなと思って立ちあがろうとした。
すると突然、ぐらりと目眩がした。
このままだと床に頭激突コースになってしまう。
受け身を取ってる余裕はない。
私は覚悟して目を瞑る。
しかし……。

「大丈夫か！？」

がしっと、肩を抱き寄せられたことにより、どうにか激突コースはギリギリ回避できた。

「……加藤さん……？」

私の首元に、ひんやり冷たいものがあてられた。
感触から察するに……氷枕か。

「熱、あるから。これで首元冷やして」
「え……！？」

自慢じゃないが、私は滅多に熱を出さない。
風邪を引くことがあったとしても、熱だけどうしても出なくて、学校を休めなかったという苦い学生時代があるくらいだ。
唯一出るとしたら、知恵熱くらいか……。
……あ。なるほど理解。

「心配しなくても、これ……すぐに治ると思います……」

きっと考えすぎのせいだ。
原因から離れてしまえば、きっとすぐ治るだろう。

「それより加藤さん、今何時ですか？」
「ああ……5時ちょっとすぎだが……」
「じゃあもう始発、動いてますね。よいこらしょっと」

熱のせいで重く感じる体に鞭を打つように、私は立ち上がった。
服も、すっかり乾いた。
烏龍茶臭はしないが、居酒屋臭はばっちりついているので、出社する前に１回着替えに戻りたかった。

「待て！」
「……何で止めるんですか？今から家に戻っても、6時半くらいには家つくので、出社には間に合いますよ」
「……まさか、その状態で電車に乗る気か」
「電車じゃなかったら、どうやって帰るって言うんですかー。まさか徒歩で帰れって言うんじゃ……」

私がそういうと、加藤さんはまたもや、お決まりとも言える盛大なため息をついた。
そして。

「家の住所教えて」
「は？」
「僕が送る」
「……はいー？」

私はこの２日間の間で、もう何度言った「はいー？」を言ったのか。
いっそ最初からカウントしておけば良かった。
さぞ新記録が出ただろう。
それくらい、加藤さんの言動と行動は、私にとって、謎が多すぎた。
そしてその謎は、私の心の中に、1つの仮説を作ってしまっていた。

この人は、私のことが好きなのではないか？

という、天と地がひっくり返らないとありえないだろうと誰もが思う、そんな仮説。