助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
「加藤さん……」
「何?」
「加藤さんって、マジで年収いくらなんですか」
「…………そんなこと聞いて、どうしたいの」
「いえ、単なる興味です」
「……ふーん……」

今、私は加藤さんが運転する車に乗せられ、自宅までの道を案内させられている。
その車、というのが、なかなかすごい。

「……加藤さん、ベンツなんて持ってたんですね。知らなかったです」
「いちいち自分の車の事なんか言わないでしょう」

いえ。
少なくとも前職では、どの車乗ってるか、のマウンティングはよく行われました。
と……余計なことは、言わない言わない。
今は見知らぬ道を、ナビと照らし合わせながら、自分の家までの道をどうにか考えて、加藤さんに伝えないといけないというミッションを背負わされているのだ。

無事に辿り着けるのか。
加藤さんの機嫌を損ねずに、スマートに道案内できるのか。

この2つを同時に背負わせられると、それこそ加藤さんのセリフではないが、脳のキャパが足りない。
でも……。

「高井さん」
「な、何でしょう」
「体、辛かったら座席倒して良いから」

心なしか、今日は少し優しい気がする。

「あ……ありがとうございます」
「いつもの仕事中みたいに猫背されると、サイドミラー見えなくて困るから」

……前言撤回。
とは言え、確かに軽く横になれるだけでも、今はありがたかった。
最初は熱だけか、と思っていたのだが、段々と体のだるさも表れてきた。
お言葉に甘えて、座席を倒させてもらった。

「……加藤さん……」
「何?」
「運転、うまいんですね」

横になったからこそ分かる。
無駄な揺れが全くない、スムーズな運転を、加藤さんはしている。
速度も速すぎず遅すぎずで、ちょうど良い。
比較的車酔いしやすい私が、心地よいと感じることができる。

「運転のコツを教わったんだ」
「誰にですか?」
「この車を売ってくれたディーラー」
「へえ……。ディーラーさんってそういうことまで教えてくれるんですね」
「ああ。車のプロだからな」
「ディーラーの案件って最近多いけど、なかなか内定決まらないって聞きますけど……面接難しいんですか?」
「いや、単に応募がないだけだ」
「ああ……なるほど……」

私が持っている企業からは、この職種の求人は預かっていない。
だけど、部署内でディーラーの求人を預かっているメンバーは多く、かつなかなか応募すらないと、嘆かれやすい職業の1つだと言われていた。

「確かに……土日祝日休みじゃないし、販売系だし……うちの会社の登録者層からはあんまり見られない求人の特徴を満たしてるって聞いたことがあります」

うちのCAに相談に来る人は、大体年収300万前後を行き来している人が、年収アップを狙って転職したいという人が圧倒的。
そのため、人気がある求人は、リーダー候補と書いてあるものや、福利厚生がしっかりしているもの、ボーナスが確実に出ると見込まれる安定企業の求人が中心だ。
もちろん、そういう求人の倍率は相当のもの。
しかも、他の人材会社から推薦される選りすぐりの人間と戦わないといけないのだ。
だからこそ、CAは少しでも安全圏の求人も勧める。
その安全圏求人として使われるものの1つとして、自動車ディーラーの求人もある。

「営業スキルも磨けるし、大手企業の子会社の可能性もあるから、福利厚生良いところ多いんですけどね……」
「そうだな。でも、自動車ディーラーは、はまる人がなれば、ものすごい力を発揮してくれる」

この言い回し、もしかして……。

「加藤さん、自動車ディーラー案件担当したことあるんですか?」
「ああ、CA時代に」
「え、加藤さんもCAやってたんですか?」
「入社してから3年目にね」
「へえ……」

は、初耳……。
加藤さんのもっと若い頃の話、少しワクワクする。
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