助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
なんで……こんなことに……。

私は今、かつて働いていた、元職場……YAIDAのロビーに来ていた。
かつては、鼻歌混じりでスキップまでした場所だったは、今は緊張で心臓がはち切れそう。
それは、何も、元古巣にいる……というだけの気持ちではない。

その理由の1つ目は、河西君が言っていた「プチイベント」……つまり、担当企業のシャッフルだ。
基本的には、特定の企業を長く受け持つ方が、営業とクライアント先の人事の絆が深まる。
だが、会社の方針として1年に1〜2回、取引先を一部シャッフルし、馴れ合いにならないようにしているとのことだった。
そのシャッフルで、私は、まさかの古巣を担当することになったのだ。
YAIDAは、採用だけでも数千万円以上のお金が動く大企業。
他の人材会社もこぞってここの採用を取りにくる。
そんな重要な企業に、まだ人材営業として1年も経っていない私が担当になるのだ。
……緊張するな、と言う方がおかしい。
そして2つ目はと言うと……。

「おい。ぼーっとするなよ」
「……何で加藤さんが、私の挨拶訪問についてくるんですか」
「入社1年未満の人間に任せるんだ。……僕も責任者としてついてくるのが当然だろう」

……だったらそんな企業の担当を、私にしなければ良いのに……。
このシャッフルで決まる企業と営業の組み合わせは、マネージャー陣の意向が強く反映されると聞く。
つまり、この状況にしたのは、加藤さんと言っても過言ではない。

「ぼーっとなんか、してる気持ちの余裕なんかないですよ」

それは、違う意味でも……だ。
加藤さんは私の肩をぽんっと叩くと

「行くよ」

と言って、私の前を歩き始めた。颯爽と。
その動きがあまりにも自然で綺麗だったので、一瞬だけ、見惚れそうになった。
< 54 / 88 >

この作品をシェア

pagetop