助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
あれから1ヶ月後……。
今日も私は、相変わらず忙しい日々を過ごしていた。
「高井さん」
「河西君」
「元木さんの件……聞いた?」
「……うん……」
「なんか、人生って何があるか分かんないよな」
あれから、元木さんはうちの会社をやめて、何とYAIDAの人事として転職していった。
あの、鮫島事件の後、私と加藤さん、そして元木さんの3人で謝罪訪問に行った。
その時、長谷部さんが元木さんの佇まいや話し方を大層気に入り、そのまま長谷部さんがスカウトした……という流れ。
本当なら、オフレコで進めて欲しい内容ではあるが、加藤さんと私は長谷部さんとの今後の関係性のことを考え、何も知らないふりをして、元木さんを見送った。
「あ、そうだ。求人も結局要件緩和したんだろ?」
「うん。やっぱ、即戦力で採用するには、リスクが高いから、技術を身につけるための素養がある人は一通り全員面接するって言ってた」
「なるほどなぁ……。そうすると、こっちとしてはありがたいけど、人事側はきついんだろうな。応募も爆増したし、ポテンシャル採用だから面接も何度もしないといけないだろうし」
「そうだよね……でも、本気で出会いたい人と縁を結ぶって、手間を惜しんじゃいけないんだろうな……って……思ったよ」
「そうだよな。俺も気を引き締めないとって思ったよ」
河西君が、ちらと周囲を見渡しながら
「なあ高井さん。今日ランチ一緒に行かね?」
「え?」
「ほら、色々聞きたいこともあるし……」
「あー……」
いつもなら、即答できた、河西君からの誘い。
だけど今は……。
「人の彼女、所構わず口説くの、良い加減やめてくれない?」
「加藤さん」
あの日から結局、加藤さんから押し切られる形でお付き合い……というものが始まった。
最初のデートが、ランチデートという日常の延長線上だったのだが、加藤さんがとてもご満悦な表情をしていたのを見て、ほっこりと幸せな気持ちになった。
でも同時に、加藤さんは私が他の誰かとランチに行くのを、露骨に嫌がるようになった。
まして……河西君からお誘いがある時は、何故か必ずこうして、割り込んでくる。
……何故そんな芸当ができるのかは、精神衛生上聞かない方が良い気がしたので、あえてスルーすることにした。
「涼介」
「え?」
「涼介って呼んでよ」
「いや、ここ会社ですよ」
特に最近は、名前で呼んでというワガママが頻発してくる。
プライベートでならともかく、会社の……それも同じ部署なのだから、節度は弁えたいと、私は思っているのだが……。
「そうですよ加藤さん。束縛強い男は嫌われますよ」
河西君は、加藤さんの性格を理解してるのか、最近ではわざと加藤さんを挑発する言葉を次から次へと放つようになった。
「それにほら……周囲がドン引きしてます」
「構うか」
構ってください。
お願いします。
心の中でだけ、突っ込むしかない。
付き合うことになった時、私は最初、どうにかして隠したかった。
だから、オフィスの中だけでなく、オフィスの最寄駅を出るまでは、決して加藤さんにプライベートの時のようには近づかない、話しかけないと決めたというのに。
その決意を嘲笑うかのように、堂々と加藤さんが私に近寄ってくる。
さらに、加藤さんと話したがっていた女の子たちには彼女がいると、私を無理やり紹介してきた。
それにもう1つ……。
「加藤さんの行動力は、起業目指す物としてはもはや尊敬すらします」
河西君が言ったのは、私の手に光っている指輪のこと。
問答無用で、左手薬指につけさせられた。
そして、似たような指輪を、加藤さんがスーツの中にペンダントとして隠し持っていることは、一応加藤さんと私だけの秘密……ではあるが……。
この様子じゃ、河西君、気づいてそうだな……。
「でも、まだ婚約指輪ってわけじゃなさそうだ」
「僕はすぐにでも結婚してもいいと思ってるけど」
「色々すっ飛ばしておかしいですから」
加藤さんと私のやり取りに対して、呆れたような苦笑いを浮かべた河西君は、最後
「ああでも加藤さん」
「何。とっとと仕事に戻りなよ」
「俺、まだ諦めてませんから。高井さんのこと」
「え?」
思わず、間抜けな声を出してしまった。
河西君は、私の肩をぽんっと叩くと
「じゃ、気が変わったらいつでもどうぞ。俺は誰かさんと違って、気が長いからね」
「ちょっと河西君!」
「じゃ、アポいってきま〜す」
颯爽と立ち去る河西君の背中を見送っていると、加藤さんが
「綾香。今日泊まりに来てくれる?」
と、耳元でぼそっと囁いてくる。
だからここ会社ー!!
まじでみんなドン引きしてるのがわかる。
でも、ここで無言を貫けば、これが長引くのを知っているので、私は観念した。
「いいけど……今日は、しないから」
「何で!」
「毎回泊まるたびにしてたら、体もたない!こっちはもうすぐアラフォーだ!加減して!」
「嫌だ」
「なんで!?」
「一緒に暮らすようになったら毎日したい」
「……!!!??」
やっぱり結婚は、この男がもう少し歳をとってからの方が良さそうだ。
でも……子供が欲しい場合は、やっぱり今すぐとかがいいの……だろうか。
いけない。
この手のことを考えてると……。
「一体何考えてたの」
「え」
「顔、してる時みたいに赤くなっててすっごい可愛い」
「そ、それより加藤さん!!」
「何」
話をすり替える。今すぐ。
真面目路線へ。
「今日のYAIDAへのアポの件ですが」
「ああ」
よしよし。仕事になると、きりっとした加藤さんに戻る。
よし。このままでいて……。
「これ、資料です。確認をお願いします」
「わかった」
「それでは、失礼します」
席に戻ろうとすると、肩を引き寄せられ、そのまま頬にキスをしてきた。
「っ!!!??」
「これで今は勘弁してあげるから」
こうして、自席に戻っていく加藤さんは、今やこの部でデフォになってしまった。
もう、周囲が見ないふりをしてくれているけれど……まだこの光景に慣れてくれない加藤さんファンからは、妬み、恨みの言葉をすれ違う度にぶつけられる。
はあ……。
確かに、確かに加藤さんとのお付き合いは、楽しい時もある。
だけどほんと……まじで。
誰か、助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません。
Winner 引き分け(なんだかんだで2人が幸せなので)
EXTRA Fightへ続く……かも……?
今日も私は、相変わらず忙しい日々を過ごしていた。
「高井さん」
「河西君」
「元木さんの件……聞いた?」
「……うん……」
「なんか、人生って何があるか分かんないよな」
あれから、元木さんはうちの会社をやめて、何とYAIDAの人事として転職していった。
あの、鮫島事件の後、私と加藤さん、そして元木さんの3人で謝罪訪問に行った。
その時、長谷部さんが元木さんの佇まいや話し方を大層気に入り、そのまま長谷部さんがスカウトした……という流れ。
本当なら、オフレコで進めて欲しい内容ではあるが、加藤さんと私は長谷部さんとの今後の関係性のことを考え、何も知らないふりをして、元木さんを見送った。
「あ、そうだ。求人も結局要件緩和したんだろ?」
「うん。やっぱ、即戦力で採用するには、リスクが高いから、技術を身につけるための素養がある人は一通り全員面接するって言ってた」
「なるほどなぁ……。そうすると、こっちとしてはありがたいけど、人事側はきついんだろうな。応募も爆増したし、ポテンシャル採用だから面接も何度もしないといけないだろうし」
「そうだよね……でも、本気で出会いたい人と縁を結ぶって、手間を惜しんじゃいけないんだろうな……って……思ったよ」
「そうだよな。俺も気を引き締めないとって思ったよ」
河西君が、ちらと周囲を見渡しながら
「なあ高井さん。今日ランチ一緒に行かね?」
「え?」
「ほら、色々聞きたいこともあるし……」
「あー……」
いつもなら、即答できた、河西君からの誘い。
だけど今は……。
「人の彼女、所構わず口説くの、良い加減やめてくれない?」
「加藤さん」
あの日から結局、加藤さんから押し切られる形でお付き合い……というものが始まった。
最初のデートが、ランチデートという日常の延長線上だったのだが、加藤さんがとてもご満悦な表情をしていたのを見て、ほっこりと幸せな気持ちになった。
でも同時に、加藤さんは私が他の誰かとランチに行くのを、露骨に嫌がるようになった。
まして……河西君からお誘いがある時は、何故か必ずこうして、割り込んでくる。
……何故そんな芸当ができるのかは、精神衛生上聞かない方が良い気がしたので、あえてスルーすることにした。
「涼介」
「え?」
「涼介って呼んでよ」
「いや、ここ会社ですよ」
特に最近は、名前で呼んでというワガママが頻発してくる。
プライベートでならともかく、会社の……それも同じ部署なのだから、節度は弁えたいと、私は思っているのだが……。
「そうですよ加藤さん。束縛強い男は嫌われますよ」
河西君は、加藤さんの性格を理解してるのか、最近ではわざと加藤さんを挑発する言葉を次から次へと放つようになった。
「それにほら……周囲がドン引きしてます」
「構うか」
構ってください。
お願いします。
心の中でだけ、突っ込むしかない。
付き合うことになった時、私は最初、どうにかして隠したかった。
だから、オフィスの中だけでなく、オフィスの最寄駅を出るまでは、決して加藤さんにプライベートの時のようには近づかない、話しかけないと決めたというのに。
その決意を嘲笑うかのように、堂々と加藤さんが私に近寄ってくる。
さらに、加藤さんと話したがっていた女の子たちには彼女がいると、私を無理やり紹介してきた。
それにもう1つ……。
「加藤さんの行動力は、起業目指す物としてはもはや尊敬すらします」
河西君が言ったのは、私の手に光っている指輪のこと。
問答無用で、左手薬指につけさせられた。
そして、似たような指輪を、加藤さんがスーツの中にペンダントとして隠し持っていることは、一応加藤さんと私だけの秘密……ではあるが……。
この様子じゃ、河西君、気づいてそうだな……。
「でも、まだ婚約指輪ってわけじゃなさそうだ」
「僕はすぐにでも結婚してもいいと思ってるけど」
「色々すっ飛ばしておかしいですから」
加藤さんと私のやり取りに対して、呆れたような苦笑いを浮かべた河西君は、最後
「ああでも加藤さん」
「何。とっとと仕事に戻りなよ」
「俺、まだ諦めてませんから。高井さんのこと」
「え?」
思わず、間抜けな声を出してしまった。
河西君は、私の肩をぽんっと叩くと
「じゃ、気が変わったらいつでもどうぞ。俺は誰かさんと違って、気が長いからね」
「ちょっと河西君!」
「じゃ、アポいってきま〜す」
颯爽と立ち去る河西君の背中を見送っていると、加藤さんが
「綾香。今日泊まりに来てくれる?」
と、耳元でぼそっと囁いてくる。
だからここ会社ー!!
まじでみんなドン引きしてるのがわかる。
でも、ここで無言を貫けば、これが長引くのを知っているので、私は観念した。
「いいけど……今日は、しないから」
「何で!」
「毎回泊まるたびにしてたら、体もたない!こっちはもうすぐアラフォーだ!加減して!」
「嫌だ」
「なんで!?」
「一緒に暮らすようになったら毎日したい」
「……!!!??」
やっぱり結婚は、この男がもう少し歳をとってからの方が良さそうだ。
でも……子供が欲しい場合は、やっぱり今すぐとかがいいの……だろうか。
いけない。
この手のことを考えてると……。
「一体何考えてたの」
「え」
「顔、してる時みたいに赤くなっててすっごい可愛い」
「そ、それより加藤さん!!」
「何」
話をすり替える。今すぐ。
真面目路線へ。
「今日のYAIDAへのアポの件ですが」
「ああ」
よしよし。仕事になると、きりっとした加藤さんに戻る。
よし。このままでいて……。
「これ、資料です。確認をお願いします」
「わかった」
「それでは、失礼します」
席に戻ろうとすると、肩を引き寄せられ、そのまま頬にキスをしてきた。
「っ!!!??」
「これで今は勘弁してあげるから」
こうして、自席に戻っていく加藤さんは、今やこの部でデフォになってしまった。
もう、周囲が見ないふりをしてくれているけれど……まだこの光景に慣れてくれない加藤さんファンからは、妬み、恨みの言葉をすれ違う度にぶつけられる。
はあ……。
確かに、確かに加藤さんとのお付き合いは、楽しい時もある。
だけどほんと……まじで。
誰か、助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません。
Winner 引き分け(なんだかんだで2人が幸せなので)
EXTRA Fightへ続く……かも……?