食人姫と殺人鬼
「お、おはよう」
「こんな時間に私以外の人が来たこと無かったから、気づかなかった」
そう言う柳の手には、小さいじょうろが握られていた。
「それ……」
「あ、じょうろのこと?ちょうど水やりしてて」
まぁ、確かに花は飾ってあるが……。そんな隅に置いてある花、言われなければ誰も気づかないだろう。
「誰かに頼まれたのか?」
「ううん、でも誰も水やりしないと思って。せっかくかわいい花なのに、枯らしてしまうのは悲しいから」
柳が優しく触れる小さな白い花は、なんの種類かは分からなかったが、きっと彼女が水やりしなければその蕾を花開かせることは無かっただろう。
そして、普段教室で過ごしている柳の印象は、どこか人とは違う雰囲気があり、よく言えばクール、悪く言えば冷めていたため、こんなに献身的だとは意外だ。
誰も率先してやらないことを、当然のことのようにこなしている彼女はやはり、クラスの連中とは違うと思った。