食人姫と殺人鬼
きっと、俺だけが知っているのだろう。
柳が意外と笑うことを。笑うと一気に幼くなることも。
本に触れる柳の指先は細く繊細で、俺に話しかけるその声は凛としており。
長い前髪から時折除く瞳は、聡明さを含んでいる。
そんな特別な存在感がある柳だが、朝日や夕日に照らされた時の彼女は透明感を孕んでいて。一瞬でも目を離せば消えてしまいそうなそんな儚さも併せ持っていた。
……俺は、柳といる時間が心地良かった。
うるさいクラスの連中に苛立つ心を瞬く間に落ち着かせてくれるし、ときおり胸をキュッと締め付けられたりもする。
でも俺は自分の感情の起伏にさせ鈍いから、柳のことをどう思っていたのか。
彼女へ向けるこの感情が何なのかを。
今でもずっと分からないでいるのだ。