6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~
「でも先輩、今日、同期飲みなんですよね……?」
申し訳なさそうに後輩が上目でうかがってきた。
それを笑顔でかわす。
「それよりこっちが大事でしょ?
ほら、今日中に送ってあいつをぎゃふんと言わせてやろう?」
「……ぎゃふんは古いです」
やっと少しだけ笑い、彼女も書類の修正をはじめてほっとした。
終わったのは二時間後だった。
「よし、これで文句ないでしょ」
仕様書を先方へ送り、帰り支度をはじめる。
この時間ならまだ同期飲み会へ顔を出すくらいできそうなので、仲のいい恵美へメッセを送った。
「あ」
唐突に後輩が間抜けな声を出し、そちらを見る。
「先輩、すみません。
規格変更の連絡、迷惑メールに入っていました……」
みるみるすまなそうに彼女が小さくなっていく。
「次から気をつければいいよ。
それにパソコンも迷惑メールに入れたいくらい、あいつが嫌いだってことだよ、きっと」
終わったことをいまさら怒っても仕方ない。
今日の失敗は次で取り返せばいいだけだ。
「先輩、ありがとうございます。
次、気をつけます」
「ん、じゃあお先ー。
あなたも早く帰んなよー」