きらめきを抱えて、口にして。






 澄み渡る晴れ模様。アスファルトには電柱と家、そして私たち2人の影が伸びる。

 住宅街を抜け、少し大きな道まで出るとコンビニがあった。私たちはそれぞれおにぎりを1個ずつ買うと、青空の(もと)、再び歩き出す。

 10分ほど歩くと、人通りの少ない道にベンチがちょこんと置かれていた。私たちはそこに腰をかけ、かばんから水筒を取り出してお茶で喉を潤す。

 舞衣ちゃんは、ふぅと一息つくとキョロキョロと周りを見渡した。




「私、ここに座るの初めてだ」

「そうなの?」

「今までこっちの方はあんまり行かなかったから」

「そっか」




 私も周りを見渡した。目の前に並ぶのは一軒家、後ろにはいくつかのアパートやマンション。あと建設会社か何かの資材置き場。ちゃんとオフィスみたいなのもある。

 そしてなんといっても少し先にある、歩道の緑のトンネル。ここを通るのはなんだか秘密基地へこっそりと向かっているような高揚感があって、小学生の頃は寄り道してここを通って帰ったこともあったな。そしてバレて、お母さんに怒られた。寄り道するな、って。

 私には馴染みの深い場所だけれど、小学校が違う舞衣ちゃんには馴染みがないようだ。いくら中学が一緒だったとはいえ、お互いの行動範囲は意外と違うものである。




「結詩、はい」




 舞衣ちゃんが、私に除菌シートを差し出す。私は受け取り、手を拭く。




「ありがとう。やっぱり舞衣ちゃんは用意周到だね」

「もう給食じゃなくなったしさ、昼も教室で食べるとは限らないじゃん。だから、水道ですぐ手を洗えなくても大丈夫なように持っておこうかなって」

「へぇ、それは考えてなかった」

「でも今日は昼食べる前に終わっちゃったけどね」

「まだ授業始まってないからね」




 私たちは手を合わせ、「いただきます」とおにぎりのフィルムを剥がし、本体に食らいついた。舞衣ちゃんは梅、私は鮭の具のおにぎりにした。スタンダードな具ってやっぱりハズレがない。おいしい。

 中学の給食と比べれば、だいぶ栄養価に偏りのある昼ごはん。お腹を空かせていた私は、ガツガツと無我夢中でおにぎりを頬張っていた。




「ねぇ結詩、私ずっと聞きたかったんだけど」




 私はお茶で口の中の米という米を流し込み、隣を見る。
 舞衣ちゃんと目が合う。




「朝比奈くんにお姫様抱っこされてたってどういうこと」




 探るような目。どんどんと近付いてくる。




「ひっ!? どうって言われても!?」




 私は思わず、後ずさる。舞衣ちゃんのような美人さんは、凄むと怖いのだ。これは世界共通だと、私の中ではもっぱら有名なのである。

 すると、舞衣ちゃんは笑い出した。




「結詩って本当に面白いよね。戸惑いを隠せないのが」

「失礼な!」




 なんなの、って思った。それでおにぎりにかぶりつこうと思ったけど、もう手にはなかった。さっきお茶で流し込んだような気がする。

 でも朝比奈くんの件は、間違いではない。紛れもない事実……らしい。

 昨日の朝の出来事を舞衣ちゃんに話すと、舞衣ちゃんは私の両肩を掴んだ。




「結詩、あんたこれ大変なことだよ! あの2人はイケメンだって1年の間で噂になってるんだから!」




 いつの間にか、舞衣ちゃんのおにぎりも消えていた。


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