薄氷
第五章/薄氷
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受験対策にあたっては、指導教諭の森崎に大いに助けられた。
精神論を説くような真似をせず、助言はいつも具体的でかつ明確だった。

彼と話していると、洸暉から借りて読んだSFの戦記ものを思い出した。
軍師、あるいは参謀と呼ばれるキャラクターが必ず登場するのだ。

戦況と彼我の戦力を冷静に分析し、戦略を立てる役割だ。
森崎の指導には、それに似たものを感じた。

受験までにやるべきことの洗い出し、いわば作戦立案を担ってくれたおかげで、陽澄は精神的にずいぶんと楽になった。

「勉強しろ」「成績を上げろ」「いい大学に入れ」と、はっぱをかける親や教師は多い。
だけれど陽澄を含め、「なに」を「いつまで」に「どう」すればいいのか分からない生徒が大半ではあるまいか。

いわゆる、できる生徒はそこも含めて優秀なのかもしれないが、17歳でそこまで考えるのはかなりの難業だ。

押し付けがましさもなく、相手が必要としていることを汲んで与えてくれる。
森崎のような存在は稀有だと、陽澄が本当の意味で分かったのは、ずっと後になってからのことだ。

タスクがリストアップされたら、あとは日々それを消化してゆくだけだ。
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