薄氷
ちなみに数学に限っては、さくさくと模範解答を示してくれる人物が身近にいた。

なるべく文系科目に重点をおいた(かつなるべく学費が安い)大学を選ぶことにしたものの、大学入学共通テストでも、数学は避けて通れない。

森崎の提案もあって、思い切って参考書は一冊に絞ることにした。
森崎が、学校が講習を依頼している塾の講師から情報を仕入れてくれた。

なんでも「数Ⅰはこの一冊をこなしておけば、なんとかなる」ということだったので、清水の舞台から飛び下りる思いで購入した。

洸暉に解いてもらい、その数式をひたすら頭に入れていった。理解というより暗記に近かったが、目標は合格を勝ち取ることだ。

たとえば、授業の板書を写したノートを見返しても、それはただの数字と記号の連なりでしかなかった。

不思議と彼が記した数式だけは、すんなり頭に収まってゆく。
頭の中に小さな本棚があるようなイメージだった。そこに洸暉のノートがしまわれている。
見たいと思えば、それを取り出して開くことができた。
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