薄氷
陽澄の世界は、自宅と学校、そして佐澤の離れ、に集約されていた。
星座の大三角よろしく、その三点間を行き来して日々を送っていた。

ときどき気分転換をかねて、土日に公立の図書館で勉強することもあった。
合間に雑誌を閲覧するのが、小さな楽しみだった。

マンガやドラマで描かれる、爽やかな青春とはほど遠い。

笑って、泣いて、恋して?
「笑って」と「恋して」はともかく、泣くことを青春の象徴みたいに描かれると違和感がある。

涙の味がどれだけ苦いかしょっぱいか、知り尽くしているから。
それでも、受験を志してから、涙を流す日はあきらかに減った。希望が生まれたのだ。

森崎のアドバイスによる受験対策のカリキュラムに取り組み、模試の結果が少しずつ向上してゆくのが、いちばんの励みだった。

10月の模試では志望校のラインでA判定を出せるまでになった。
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