薄氷
気づけば、志深に来てから一年以上が経っていた。

そしてグループに入るどころか、友達ひとりおらず、ただいつも昼休みには、隣に無口な“彼”がいる。

受験が近づくにつれ、三年生のクラスにはやはり独特の雰囲気が漂うようになった。
人生を左右する最初の関門を迎えるわけだから、緊張感が高まるのは同然だ。

台所で祖母が使っている圧力鍋から、鋭く蒸気が吹き出すのを見て、ちょっとだけ似ているなと、教室の張りつめた空気を思い出した。

狭い空間に、熱と圧力が凝縮されている。限られた時間内で結果を出すべく煮込まれているのだ。

料理みたいにうまく仕上がるといいな、とほろほろになった豚の角煮を噛みしめながら思う。

なにを見ても受験を連想してしまう自分も、相当受験熱に冒されているのだろう。

洸暉だけが、受験などどこ吹く風と、泰然としていた。
学校の補講などは一通り受講しつつ、他に予備校に通ったりしている様子はない。
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