薄氷
経済的な余裕がなくて予備校という選択肢がない自分と、学力に余裕があり予備校に行く必要がない洸暉。
なんであれ、余裕があるのは羨ましい。

とはいえ、つつけば今にも破裂しそうな教室の空気からひととき離れて、洸暉と過ごす昼休みの静かさに、いつのまにやら心地よさを覚えていた。
彼の変わらなさが、こちらの精神安定になっているのかもしれない。
もちろん、そんなことは口に出さないけど。

ちなみに陽澄の髪は、長すぎず短すぎず、肩より下くらいの長さで落ち着いていた。
前髪は自分でカットして、あとは3ヶ月にいっぺんくらい美容院に行っている。

美容院で長さを揃えてもらうたび、洸暉は毛先をつまんで「切っちゃったんだ」とつまらなそうにつぶやくものの、それ以上文句は言わなかった。
しかし、いちいち細かい変化に気づくことに驚く。

毎日顔を合わせていても、髪の長さの数センチの変化なんて、素通りしてしまいがちだ。
陽澄にしてもしかりで、自慢ではないが祖母が白髪染めをしたところで、気づけたためしがほとんどない。

彼が鋭敏すぎるのか、それともこちらに特別な関心を持っているからなのか、最後まで分からなかった。
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