薄氷
「このあとは太陽光発電の事業に使われる予定、らしい。今は放置状態」

閉鎖したゴルフ場に、廃業が決まった映画館。つくづく夢がない場所が好きなやつだ。

フェンスが破れてるとこがあったんだ、とつぶやきながら彼は歩き始める。

ちょっと待て、忍びこむつもりなのか。
「前にも来たことあるの?」
感覚がなくなった手を擦り合わせながら、無愛想な背中に訊いてみる。

通りかかった、と振り向かずに言葉が返ってくる。

ひとりでここまでバイクを走らせてきたということか。会っていない日に彼がどう過ごしているのか、まるで知らないのだ。
どこかで寂しさをおぼえるのはなぜだろう。彼がひとりきりだからか、それとも自分が誘われなかったからなのか。

と、洸暉が足を止めた。
車か、もしくはバイクでも突っ込んだのか、フェンスが大きくひしゃげて支柱からはがれている箇所があった。

くぐれば中に入れるだろう、が———
「中に入って、どうするの?」
いちおう訊いてみる。

「見るだけ」
閉鎖したゴルフ場を? なんのために。

ふと伸びてきた彼の手に、手のひらをつかまれた。といっても、お互い手袋ごしだけれど。
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