薄氷
彼の場合、握るとか、つなぐというより、つかむというほうがしっくりくるのだ。
それでも手を引かれると、素直に後に続く。

体をかがめてフェンスを通り抜けると、露出した針金の端が、がりがりとコートを引っ掻いた。
別にかまやしない。学校指定の重たいコートは、もうすぐ必要なくなるのだから。

さらに植え込みのあいだを強引に抜けると、そこにはたしかにゴルフ場のコースが広がっていた。
なまじ空間が広けているせいで、実にがらんどうに映る。冬枯れた茶色い芝生が、よけい寂しげな印象だ。
見捨てられた場所。

見るだけ、といったって、なにもないのに、とちらりとかたわらの洸暉を見上げる。
なぜだか彼は陽澄の手をつかんだままだ。

だだっ広く見知らぬ場所にいるせいだろうか、それとも二人で手をつないでいるというシチュエーションのせいか。一瞬、自分が小さな、まるで迷子の子どもになってしまったようなイメージに捉われた。

あながち外れていないことに気づく。こんな土地勘のないところまで来てしまったら、バイク無しで帰るのは難しいだろう。
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