薄氷
こんなとこにいても寒いだけだよ、早く引き上げよう。
そう言いたい気持ちを察してほしくて、洸暉にまなざしをあてる。

あえてなのか、彼は眼前の茫洋(ぼうよう)としたゴルフ場に視線を向けたままだ。
その瞳からは、いつもながら、ほとんど感情が読み取れない。

「あそこまで行ってみよう」
ひとりごとのようにつぶやいた。

あそこって、どこだ。
彼の視線の先———といってもだだっ広いので絞るのが難しいのだけど———を探す。

緩やかな起伏の向こうの、平らかで鈍い白色に見えるところは、池に氷が張っているのだろう。
「池のところ?」

そう、とだけ口にして、洸暉は足を踏み出した。
手を繋いだままなので、陽澄も一緒に歩を進めるしかない。
まったく、物好きなんだから、と内心ぼやきながら。

小さく土手が盛られ、そこから傾斜をつけて一面に氷が張った池に続いている。

並んで土手に立ち、彼はなにを思うのか、じっと池を見下ろしている。
ひりひりした怜気を感じるのは、気温のせいだけだろうか。
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