薄氷
彼女が凶刃を向けた相手は自らで、他の誰か、夫でも赤ん坊でなかったことは不幸中の幸いだったのか。
ともあれ、もの心つく前から、佐澤洸暉の人生にはこの血なまぐさい物語が付いて回ることとなった。
とはいえ幼い頃は、自分の出生の事情など知らされることもなく、彼、佐澤洸暉は旧家の跡取り息子として大切に育てられた。
母親という存在こそ欠けていたものの、親戚の女性や家政婦に囲まれ、愛情と関心を注がれて健やかに成長する。幼少期は癇が強いきらいはあるものの、利発で愛らしい少年だったと誰もが口をそろえる。
佐澤洸暉の住む世界が一変したのは、小学校二年生の時だ。
きっかけは同級生の少年のひと言だった。お調子者で目立ちたがり屋な、クラスに一人はいそうな、呼び名は仮にA君としておく。彼の名自体もうここでは消された存在なのだ。
ともあれ、もの心つく前から、佐澤洸暉の人生にはこの血なまぐさい物語が付いて回ることとなった。
とはいえ幼い頃は、自分の出生の事情など知らされることもなく、彼、佐澤洸暉は旧家の跡取り息子として大切に育てられた。
母親という存在こそ欠けていたものの、親戚の女性や家政婦に囲まれ、愛情と関心を注がれて健やかに成長する。幼少期は癇が強いきらいはあるものの、利発で愛らしい少年だったと誰もが口をそろえる。
佐澤洸暉の住む世界が一変したのは、小学校二年生の時だ。
きっかけは同級生の少年のひと言だった。お調子者で目立ちたがり屋な、クラスに一人はいそうな、呼び名は仮にA君としておく。彼の名自体もうここでは消された存在なのだ。