薄氷
「氷が張ってるな」

「…うん。そう、だね」
見ればわかることを、なぜわざわざ口に出すのか。

「上に乗れるかな」

「冗談言わないで、危ないよ!」
拒絶の言葉とともに、手を振りほどこうとしたが、予期していたようにがっちりと握られている。痛いほどだ。

「薄氷を()む、って言うじゃん」
口にしながら、初めてこちらに視線を向けた。
「やってみたらどうなるかな」

「割れたらどうするの!」
悲鳴のような声が出る。手を掴まれながらも、必死で後ずさる。

「危ないから(いざな)われるんだろうな」
あくまでも静かな口調だ。

「わたしは嫌だよ」
脳内であらゆる想像が、思考が、感情がミキサーのように攪拌される。

ゴルフ場の池は、どれくらいの深さがあるんだろう。見当もつかないけど、冬の池に落ちたらただですまないことは確かだ。

凍傷ですめばいいほうで、最悪は…死だ。こんな人気(ひとけ)のない場所では、助けも期待できない。
ニュースになり、バカな高校生として、死んだあとまでネットで嘲笑される羽目になるのか。
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