薄氷
書架をぶらぶらと回ってみる。海外文学のコーナーで足が止まった。背表紙に目を走らせると、棚の中ほどにスティーブン・キング、という名前を見つけた。

有名な人だよな、ホラー小説だっけ…?
色あせた背表紙に指をかける。

ゆらり、と人影が書架の陰からあらわれた。陽澄がいる列に足を踏み入れてくる。
横目でその姿を認識しただけで、体感温度が下がった。

佐澤洸暉だ、間違いない。なんでここに?
偶然だろうけど、狭い書架の列で鉢合わせるとは運が悪い。

視線は本に固定したまま、体をできるだけ目の前の棚に寄せる。早く通り過ぎてほしい。

ダンッ、
突然、本にかけていた自分の右手が、背後から伸びてきた手に押さえつけられた。

なっ!?
衝撃と混乱で、体が硬直する。
息を飲みながら、反射的に体をひねって肩越しに背後に目を向けた。

まるで感情をあらわさない一対の瞳が、自分を見下ろしている。
なんで? なにを?
もしや、読みたい本がかぶったのか。べつにスティーブン・キングなら喜んで譲る。だから…
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