薄氷
「スダヒズミ」
馴染みのない名を確認するときの、平板で機械的な声だ。

なぜ自分の名を呼ぶ?
パーソナルスペースを完全に侵害した距離の近さに、身がすくむ。

陽澄の身長は160㎝と、女子の平均よりやや高い。その自分を見下ろしている彼の身長は、170㎝台の後半といったところか、いや、そんなことより…

あの、と言おうとしたところで、自分の手を押さえつけていた彼の手が離れた。

わずかに緊張が解けたのもつかのま、後頭部に鋭い痛みを感じた。同時に首がのけぞる。
背後から回された佐澤洸暉のもう一方の手が、陽澄の髪を掴んで引き下ろしているのだ。

「痛いっ! イタい!」
食いしばった歯の間から悲鳴が漏れる。

なんで髪を引っぱる!? 自分がいったい何をしたんだ。ただ本を見ていただけなのに…
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