薄氷
手が解かれる気配はまるでなく、どころか彼の手がぐるぐると自分の髪を巻きとってゆくのが分かる。

容赦ない力に、頭皮がちぎれそうに痛み、強制的に彼に向かい合うかっこうで上を向かされる。

「やめっ…」
喉をそらせているので、つぶれたような声が出た。

必死で両手を後ろに回して、自分の髪を鷲掴みにしている彼の手をどうにかしようともがく。

抵抗むなしく、彼の手に髪を掴まれたまま、もう片方の手が苦痛と恐怖に歪む陽澄のあごにかけられた。

佐澤洸暉の顔がどんどん近づいてきて視界をおおう。
ぶつかる、というところで彼がわずかに顔をかたむけた。

…今、口と口が触れた気がする。どういう…自分は何をされているんだ?
もはや意味を考えることもできない。痛みからか目に涙がにじんできた。
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