薄氷
佐澤洸暉がそのまま図書室のドアを押し開ける。
なかなかしゃれたガラスの押し戸で、金属製のドアハンドルが付いている。外に出たところで、陽澄はそのハンドルを握りしめて、足を踏んばった。

陽澄の挙動に、彼が無言で振り返る。
「離して」
見返して毅然と口にした、つもりだ。

佐澤洸暉は何も言葉を返してこなかった。わずかに眉をひそめて、空いている手をつと伸ばし、ハンドルを握りしめる陽澄の手首を掴むと、有無を言わさず引き剥がした。

そしてまた何事もなかったようにこちらに背を向けて歩き出す。

全力で抗ったはずなのに…無力感に打ちのめされながら、二の腕に食い込む彼の手と言葉を返してこない背中に恨めしげな視線を投げるしかなかった。

それほど厚みがあるわけでもない、どちらかといえば細身な体型をしている。それなのに、なんだって男子はこんなに力が強いんだ?
そしてどうしてさっきから誰とも目が合わないんだろう。
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