薄氷
下校時間帯だ。
周りに生徒たちが行き交っているのに、誰もが佐澤洸暉と “連行“ されている陽澄から、実に自然に視線をそらしている。あたかも存在しておらず、目に映っていないかのように。

下駄箱が並ぶ昇降口まで来て、ようやく腕を離された。彼が陽澄に視線を落とし、下駄箱にかるくあごをしゃくった。

靴を履きかえろってことか…無言で人を扱うのに慣れた様子だ。
のろのろと自分の上履きを下駄箱に入れ、外履きのスニーカーをぺたっとすのこの下の掃きだしに降ろす。

まだ真新しさが残るスニーカーだ。登下校がスニーカーってやっぱりダサい。前の学校ではローファーだったのに。田舎はどこに行くにも遠くて不便で歩かされて、だからスニーカーを履かなきゃいけなくて…
< 22 / 130 >

この作品をシェア

pagetop