薄氷
さっさと靴を履きかえたのか、佐澤洸暉が出入り口の近くでこちらに視線を投げている。

急かされるようにスニーカーを突っかけると、ふたたび彼に腕をとられておとなしく後を歩く。リードに引かれた犬でも、もう少し自由があるだろうに。
こみあげてくる惨めさを、ぐっと奥歯で噛み殺した。

田舎の学校はやたらと敷地がだだっ広くて、まだ全容を把握できていない。
引っ立てられるまま、細長いプレハブづくりの運動棟のわきを通って、裏手に回ってゆく。金属の柱に波板の屋根がついている自転車置き場があり、自転車が並んでいた。

陽澄は自転車通学をしていないので、ここに来るのは初めてだった。というか来たくて来たわけではない。

佐澤洸暉がポケットからいくつか鍵の付いたキーホルダーを取り出し、一台の自転車を開錠した。カゴと荷台のついた普通の通学用のチャリだ。
無造作にカゴに自分の鞄を放りこむと、陽澄の鞄を奪ってハンドルにかけた。

「ちょっ!」という抗議の言葉は無視された
< 23 / 130 >

この作品をシェア

pagetop