薄氷
背後から圧を受けながら廊下を歩く。説明してほしい、と切実に思う。

彼が廊下の先にあるドアの一つを開けて半身を入れ、明かりのスイッチを押した。

そこは彼の私室といった雰囲気の空間だった。天井の梁表(はりあらわ)しがちょっと目を引く以外、あまり特徴のない、まあ男子高生の部屋だ。とはいえ陽澄が与えられている部屋のゆうに倍の広さはあるだろう。

視線で催促されるも、さすがに足を踏み入れるのはためらわれた。

いや、ちょっと待って…

佐澤洸暉は待ってはくれなかった。二の腕を掴まれて、部屋の中に引き入れられる。背後でドアが閉まる音がした。
そのまま彼が足を進めると、ぽいと二つの鞄を床に放る。

あらためてこちらに向き直り、見下ろされると左胸の奥が冷たく痛んだ。

彼の腕が体に回される。抱きしめられている、というより拘束されている、が正しい状態だ。

「震えてる」
確認するように、彼がつぶやく。
声に潜む残忍な響きに、ただ竦みあがる。
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