薄氷
自分のものであるはずの身体のふくらみが、別の誰かの手の中で形を変えられても、なすすべもない。

彼の膝頭で内腿(うちもも)を割られた。
陽澄を組み敷いたまま、ポケットに手を入れ小さなプラスチックの袋を取り出す。

ピッ、と鋭い音をたてて犬歯で破るのを見上げているのは、自分だ。
恐怖を麻痺させることはできないと思い知る。

膝の裏に手が潜りこみ、無様に足を開かされた。

意識を追いやれ、遠くへ、遠くへ、どこかへ…

身体が内から(えぐ)られ、ベッドが(きし)んでギシギシと鳴く。

誰かが悲鳴をあげている———
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