薄氷
母と祖母をあくせく働かせて、永遠に家に引きこもっている…わけにはいかない。
おそらく一番家計を圧迫しているのは、自分の学費だ。

東京はよかったなぁ、と遠い昔を懐かしむように思い出す。

女子校だったから同級生にレイプされる心配もなかったし(当たり前だ)、耐えがたい事情があったら、転校という道もある。東京には学校がたくさんあるのだから。

田舎には学区ごとに公立校が一つしかないし、越境などむろん認められない。
私立校もあるにはあるらしいが、そこはいわゆる公立校から“こぼれた“者が通うところだそうだ。
男性への恐怖が生々しい身としては絶対に近づきたくない場所だ。

ならどうすれば…思考は結局堂々巡りだ。

学校に、もう自分の居場所などないだろう。

陽澄が佐澤洸暉の自転車に乗せられて下校していったことも、どころか、泣きはらした顔で彼と遅い時間に駅の近くを歩いていたことまで、噂になっているに違いない。
人口数千人のこの町では、誰かと誰かが知り合いなのだ。

———あの転入生の子、佐澤洸暉にヤられちゃったらしいよ。
———あの子、ヤられちゃったらしいよ。
———ヤられちゃったらしいよ。

ぶるりと身体が震える。…なんで傷つけられた上に、嘲笑(わらわ)れるのは女性のほうなんだろう。
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