薄氷
それだけ告げて引っこんでしまった母親を追うように、ベッドから転がり出る。
立ち眩みに襲われながら、せき立てられるように、パジャマから制服に着替えた。

頼むから悪い冗談だと言ってほしい。恐ろしいからこそ、自分の目で確かめずにはいられない。

須田家の一階は、台所兼食堂と、作りつけの棚で仕切られて続き間になった居間からなっている。

その食堂の、かつては祖父の定位置だった上座に、陽澄がこの世でもっとも会いたくない人物が、当たり前のように座っていた。

佐澤の総領息子との相席は恐れ多いとばかりに、母と祖母はキッチンカウンターの前に並んで控えている。

須田家の朝食は、祖母が作る和食だ。ご大層なものではない。
ご飯とお味噌汁(昨夜の残りであることが多い)、それに簡単なおかずが一品つくくらいだ。今朝のおかずは、油揚げをあぶって鰹節と醤油をかけたもののようだ。

佐澤洸暉の前に湯気の立つそれらが並べられ、彼は黙々と口に運んでいる。藍色の茶碗は祖父が使っていたもののはずだ。
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