薄氷
洸暉が住まうために改築がほどこされたのだろうか。壁紙やフローリングなど、全体的に新しさが感じられる。
便を優先したのか洋の様式になっているが、天井の梁表しに往時の趣が残っている。

竣工時からこの建物を支えている梁だろう。
星霜を経て黒光りし、ところどころひび割れた木肌をみせるそれを、仰向けになったベッドから、彼の肩越しに見上げるのも、何度目になるのかとうに分からなくなった。

初めの頃は滲んでばかりだった視界も、今や鮮明だ。

毎月一センチずつ髪は伸び、年が改まった。
休み前の定期テストの結果が悪くなかったので、母は安堵した様子だった。
転校先にうまくなじむことができたと思ってくれているなら、それでいい。

他にこれといってやることがないので、授業の復習と試験勉強はこつこつとこなしていた。

自分には洸暉のような(比較対象がもはや彼しか出てこないところが、現状を物語っている)天性の知力はない。

反復して、少しずつ積み重ねるだけだ。
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