薄氷
*


馴れというのは誰にもあることなのか。

なんかやる気がない、と窓枠に腰かけたまま、洸暉がぽつんとつぶやいた。

二月のある日のことだ。

部屋に匂いがつくことは好まないのか、窓を開けて窓辺で一服する。冬でもそれは変わらなかった。

やる気がない、という言葉の真意をはかりかねて、冷気が流れこんでくる方向をたどるように洸暉を見やる。陽澄は定位置になっているローテーブルに向かっている。

手の中の灰皿に視線を落として「こんな日もあるんだな」と続ける。表情に戸惑いの色があった。

女である身には分からないけど、十七歳の男子高生の性欲といったら、本人でも持て余すものがあるだろう。
それこそ欲望にまかせて同級生の女子を手篭めにしてしまうほど。

彼が立ち上がると窓を閉めて、灰皿をデスクに置く。
やる気がないならなんで、とこちらも当然戸惑いながらも、どうやら彼にとっても想定外なのだと察しはついた。
洸暉がローテーブルの角をはさんだ位置に腰を下ろす。片膝を立てたかっこうでこちらに視線をよこすと「数学の問題、ある」と訊いた。
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