薄氷
「あ、うん」と鞄から数学の問題集とノートとペン入れを取り出す。
当てられているわけじゃないけど、次回の出題範囲を解いてもらっておくにこしたことはない。備えあれば憂いなしだ。
ここからここまで、と示すと彼がペンを手にしノートを引き寄せた。
いっとき、ペンがノートを走る乾いた音だけが、静かな空間を満たす。
角ばったすこし癖のある字体が、罫線からはみ出しぎみに数式を展開してゆく。
そういえば、彼が書く漢字やひらがなを見たことがあっただろうか。数式ならひと目で彼の手によるものだと分かるけれど。
いつもながら鮮やかに紡がれる数式に見入りながら、やる気がないと言ったからには今日はやらないのだろうか、と思案がうずまく。
体を差し出さなくとも数学の問題は解いてくれるのか。まあ彼にとっては造作もないことなのだろうけど。あるいはこうして解いているうちに気が変わる可能性も…初めての状況に落ち着かない。
当てられているわけじゃないけど、次回の出題範囲を解いてもらっておくにこしたことはない。備えあれば憂いなしだ。
ここからここまで、と示すと彼がペンを手にしノートを引き寄せた。
いっとき、ペンがノートを走る乾いた音だけが、静かな空間を満たす。
角ばったすこし癖のある字体が、罫線からはみ出しぎみに数式を展開してゆく。
そういえば、彼が書く漢字やひらがなを見たことがあっただろうか。数式ならひと目で彼の手によるものだと分かるけれど。
いつもながら鮮やかに紡がれる数式に見入りながら、やる気がないと言ったからには今日はやらないのだろうか、と思案がうずまく。
体を差し出さなくとも数学の問題は解いてくれるのか。まあ彼にとっては造作もないことなのだろうけど。あるいはこうして解いているうちに気が変わる可能性も…初めての状況に落ち着かない。