薄氷
それならば、と提案されたのは看護学部だった。自分なりにおぼろげに描いた進路とも合致していた。
看護師。現実的だ。もはや夢はみない。
「いわゆる師業にあたるし、手堅いからね」
と言葉を継ぐ。
かといって、医学部や薬学部は口にしない。学力と、そして経済的にも厳しいことは、彼にもよく分かっているのだろう。
「できれば学費の安いところが…」
とごにょごにょ口にする。
「となると国公立がいちばんだけど、難しいなら私立で奨学金を申請するのが現実的かな。あと、看護師一本に絞るなら専門学校もある」
担任とは別に、進路指導を担当している森崎という名の若い男性教諭に、自然な好感をもつことができた。言葉が明確で分かりやすい。
なにより志深臭(これは陽澄の造語だ)がしないところがいい。それもそのはず、森崎は県内ではあるが、かなり離れた市の出身とのことだ。校内で、佐澤洸暉の女、ではなく須田陽澄として扱われるのはいつぶりだろう。
クラス内のコミュニティから外されているものの、周囲のおしゃべりは耳に入ってくるので、陽澄はそれを拾うことで情報を得ていた。
森崎の評判は保護者にもかなり良いようだった。進路指導と受験対策に意欲的で、予備校から評判のいい講師を招いての講習など、新たな取り組みを導入し、それらはおおむね成果をあげている。
「あとはご両…あ、ご家族のかたと相談して」
という最後の言葉だけが、彼の唯一のつまずきだった。
看護師。現実的だ。もはや夢はみない。
「いわゆる師業にあたるし、手堅いからね」
と言葉を継ぐ。
かといって、医学部や薬学部は口にしない。学力と、そして経済的にも厳しいことは、彼にもよく分かっているのだろう。
「できれば学費の安いところが…」
とごにょごにょ口にする。
「となると国公立がいちばんだけど、難しいなら私立で奨学金を申請するのが現実的かな。あと、看護師一本に絞るなら専門学校もある」
担任とは別に、進路指導を担当している森崎という名の若い男性教諭に、自然な好感をもつことができた。言葉が明確で分かりやすい。
なにより志深臭(これは陽澄の造語だ)がしないところがいい。それもそのはず、森崎は県内ではあるが、かなり離れた市の出身とのことだ。校内で、佐澤洸暉の女、ではなく須田陽澄として扱われるのはいつぶりだろう。
クラス内のコミュニティから外されているものの、周囲のおしゃべりは耳に入ってくるので、陽澄はそれを拾うことで情報を得ていた。
森崎の評判は保護者にもかなり良いようだった。進路指導と受験対策に意欲的で、予備校から評判のいい講師を招いての講習など、新たな取り組みを導入し、それらはおおむね成果をあげている。
「あとはご両…あ、ご家族のかたと相談して」
という最後の言葉だけが、彼の唯一のつまずきだった。