薄氷
受験したい、と夕餉の席で切り出したときの母と祖母の反応は “微妙” だった。

中途半端な時期に、親の都合で転校を余儀なくされたため、内申点等々は吹っ飛び推薦入学は望めない。
経済事情を鑑みるに、就職という選択肢も視野に入れないといけないが、短大くらいは行かせてやりたいのが親心だろう。

「看護学部に行きたいの」
と言葉を続けると、二人の顔にはっきりと難色が浮かんだ。

国公立大学は狭き門、となると私学、しかも通学圏内にはおそらくないから、下宿することになる。
医療系の学部は、平均より学費が高い、その上に仕送り…母と祖母が頭の中ではじく算盤(そろばん)の音が聞こえるようだ。あるいは電卓を叩く音か。

なんでまた、と母がため息のかわりのように、言葉をこぼす。
「いきなり看護学部なんて」

看護師の資格を取りたいから、と端的に答えた。
「手に職をつけたいんだ」
その言葉には十分すぎるくらいの説得力があると知っている。
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