薄氷
数日後、母があらたまった様子で伝えてきた内容は、次のようなものだった。

看護師になるための受験は認める。合格したあかつきには、祖父が遺したささやかな貯蓄を充ててでも、学費はなんとかする。
その代わり、現役で合格すること。抑えで地元の短大も受験すること。
考え抜き、娘の望みと、現実(主に経済的な問題)と向き合った末の、結論だろう。

「分かった」と陽澄はうなずいた。ありがとう、と付け加える。

春休みは、受験生を対象にした課外講座に出席した。模擬試験も受けたが、そちらの結果は現国以外惨憺(さんたん)たるものだった。

去年色々なこと(両親の離婚、転居と転校、経済事情の悪化、同級生からのレイ…いや、もうよそう)がありすぎたのだ。受験のことを考える余裕がなかったんだから、仕方ない。
明確な目標ができたからには、切り替えてその方向に進むだけだ。

学校にいる時間は、孤独というより孤立を感じるから、居心地はよくないけど。もはやそれほど苦痛でもなかった。

洸暉も違う講座を受講しているらしく、通学する日が重なることがあった。
どこか人より薄く感じられるその影を踏んで、彼の半歩後ろを歩く。自分に孤独と、そこからのひとときの解放を与える存在。
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