薄氷
隣でバイクに視線を注いだまま、頷いている。

「免許持ってたんだ」
「春休みに取った」

インドア派かと思いきや、男子らしくアクティブな面もあるようだ。自分にはスピードや乗り物への憧れのようなものはないから、そこは男女の違いだろうか。

彼が視線をバイクからガレージの壁に向ける。
そこには、これも真新しいヘルメットが揃いで二つ、並んでフックにかけられていた。
洸暉が両手で一つずつフックから外すと、片方をこちらへ渡してきた。

受け取ってみると、フルフェイスのヘルメットのしっかりした重みを感じる。
「乗るの?」
質問というより、確認のために問う。

そう、と当然のように返ってくる。

「バイクって二人乗りしてもいいんだっけ」
乗り物に関する知識が乏しいのだ。しつこいようだが、東京で生活していたので、自家用車もなかった。たまに出かけるときに父親が運転するレンタカーに乗るくらいだった。

二人乗りが禁止なのは50cc、と淡々と口にする。
「これは124cc、タンデム可能な排気量」
洸暉がヘルメットをミラーに引っかけると、バイクに鍵を差し込んだ。

たんでむ、って二人乗りのことだっけ、と思いながら、バイクを押す彼の後を歩く。
< 89 / 130 >

この作品をシェア

pagetop