薄氷
それにしても聞けば聞くほど、佐澤の坊には不穏という言葉がつきまとうようだった。
梢や奈美だけでなく、母や祖母も、佐澤家のこととなると、それはそれは詳しかった。志深という土地と佐澤の名は、それだけ切っても切れないということだ。
そもそもは現当主の妻に子どもが生まれなかった、というところからつまづきが始まったようだ。
「佐澤の本家にお嫁に行くぐらいだから、本人もいいところのお嬢さんだったんだけど。子どもができんで。東京の大きな病院に行ったり、果てはあやしげな能力者に“気”を入れてもらったり、何千万も使ったいう話よ。それでも結局授からんかった」とは祖母の談だ。
妻は次第に心を病み、屋敷に引きこもるようになってゆく。
佐澤の親戚連中は当然養子を提案する。うまくすれば自分の家が本家筋になれるのだから当然だ。
だが実子を諦めきれなかった当主は外に愛人を持った。その愛人の産んだ男児が佐澤洸暉だという。
所詮子どもを作るためのつながりだった愛人はお役御免となり、まとまった手切れ金とともに志深から姿を消した。噂では東京で水商売をやっているとかいないとか…
梢や奈美だけでなく、母や祖母も、佐澤家のこととなると、それはそれは詳しかった。志深という土地と佐澤の名は、それだけ切っても切れないということだ。
そもそもは現当主の妻に子どもが生まれなかった、というところからつまづきが始まったようだ。
「佐澤の本家にお嫁に行くぐらいだから、本人もいいところのお嬢さんだったんだけど。子どもができんで。東京の大きな病院に行ったり、果てはあやしげな能力者に“気”を入れてもらったり、何千万も使ったいう話よ。それでも結局授からんかった」とは祖母の談だ。
妻は次第に心を病み、屋敷に引きこもるようになってゆく。
佐澤の親戚連中は当然養子を提案する。うまくすれば自分の家が本家筋になれるのだから当然だ。
だが実子を諦めきれなかった当主は外に愛人を持った。その愛人の産んだ男児が佐澤洸暉だという。
所詮子どもを作るためのつながりだった愛人はお役御免となり、まとまった手切れ金とともに志深から姿を消した。噂では東京で水商売をやっているとかいないとか…