薄氷
門を出たところで、乗る前に簡単な説明を受けた。

ニーグリップで座ること。
ようするに内腿でしっかりシートを挟むということらしい。
ドライバーの腰に手を回して、姿勢を安定させる。
とはいえ、しがみつきすぎると、ドライバーに体重がかかり運転操作に支障がでるのでほどほどに。

「慣れるまでは、そんなにスピード出さないから」

そうしてもらえるとありがたい。

洸暉が車体にまたがりバランスを保ったのち、陽澄も左足をステップにかけて乗車した。

エンジンがうなり、タイヤが地面を削るように駆動する。

バイクに乗るのは初めてだったけど、さほど緊張は感じなかった。
ようするに化石燃料を消費しながら走る鉄の塊だ。
生身の人間のほうがよっぽどたちが悪いと、自分はすでに知っているから。

風圧はたしかに自転車のそれとは、比べものにならなかった。
肌を撫でるというより、擦りあげ、ときに押しこんでくるようだ。

洸暉は口にしたことを違えることはなく(そもそも口数自体が少ないのだが)、国道を一定の速度で流す、という走りだった。
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