薄氷
鋭いカーブも急坂もない田舎の国道は、初心者にほどよいコースなのかもしれない。

帰りはそのまま、陽澄の家の近くまで送ってくれた。
当たり前のことながら、自転車よりずっと速かった。

風呂に入ってから、携帯でバイクの2人乗りについて検索してみた。
条件のひとつに、免許を取得してから一年以上経過していること、としっかり記載されているのを読んで、「ちょっと」とひとり口に出して突っこんだ。

思いっきり道路交通法違犯じゃないか。

まあいいか、と携帯をほうり出す。

ここが志深である限り、彼が佐澤の坊である限り、治外法権が適用されるのだ。
洸暉とて分かってやっているに違いない。

所詮は志深という巨大な籠の(うち)の鳥なのだ。
その中でバイクを乗り回したところで、だれも咎めだてはしない。

それからというもの、おもに国道でバイクを2人乗りする洸暉と陽澄の姿を、多くの人が目撃するようになった(ことだろう)。

フルフェイスのヘルメットを被っていても、人にはそれが彼だと分かるはずだ。
ここは志深なのだから。
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