薄氷
次第に離れで体を重ねるより、バイクに乗ることのほうが多くなった。
洸暉のその日の気分なのだろうが、なんとはなく理解、というか体感できる。

薄暗い部屋で濁った欲望を吐き出す行為より、バイクを疾走させる爽快感や解放感のほうが勝るだろう。

受験生なんだけどな、と思うこともあるけれど、彼との逢瀬は週に一度か二度だ。
そしてあいも変わらず、洸暉に数学の課題を解いてもらっているのだ。

受験勉強はそれとして、日々授業を受けて定期テストのための勉強も並行してあるわけだから、受験生はやはり大変だ。

バイクと洸暉と自分と、ひとつになった影とともに、走る。
彼と呼吸を合わせて、カーブやブレーキでスムーズに重心を移動させられるようになってきた。
風でまくれないように、スカートをたくしこむことにも手馴れた。

洸暉に具体的な受験の話をすることはなく、彼に進路について尋ねられることもなかった。
彼は佐澤の跡取りの定められた道として、地元の国立大学に進学するのだろう。
特に受験勉強をしている様子はないが、彼の学力ならどの学部でもたやすく合格できるはずだ。

道は別れるのだ。

それでも———ひとつに重なり合った影を見つめて、思うことをやめられない。

もし彼が、このままそばにいることを望んだら。万が一にも、引き止めてきたら。
自分はどう感じるだろう、どうするだろう———と。
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